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仕事+豪快+中年=力を持て余したオッサン


5000PV越えしました!


ひとえに皆様のおかげです、これからも宜しくお願いします(^-^)/


 用意を終えた後、闘技場に向かうと虎顔のオッサンことエムアルが先にいた。腕組みしていたそいつは俺を見るなり大口を開けて高らかに笑い出した。だが、その笑い方に嫌味な感じは一切無く、豪放磊落という言葉を彷彿とさせる朗らかな笑い方だったことに少し緊張が緩む。


「ガハハハ! やはりシードなんて貰うものじゃあないな! 退屈で死にそうになったわ! あの採掘現場以上に高揚感がある。我ながら素晴らしい職場が見つかったもんだ!」


「なんで採掘現場の人が騎士になろうとしてんだよ……」


 突っ込みながらも少ない時間で情報を得るため装備を見ると鎧などは着けていない。胸当てにダブダブなズボン。頭にはヘルメットのようなものをかぶっていた。

 ……地球では工事現場の人がこれに近い姿をしてるよな……

 特別魔法がかかっているわけでもない急所を守るためだけの装備だが、それは無防備ということではない。胸当ての下、腕、余すとこ無く力強い筋肉が覗いていた。装備の薄さは自分の肉体への絶対的信頼の裏付けということか。


「それはなぁ、最近採掘場から取れる鉱石が減ってしまってな。新しい鉱山を見つけるまでは収入が安定しない。そうしたら嫁に『安定した収入の仕事を探せ』と言われてしまってな! ガハハハハ! まあ仕方なく……」


「大会に出たのか!?」


「聞いた話ではなかなかいい給料だそうじゃあないか! 儂としてもいい収入がある仕事はやりがいがあるものだ!」


 アホだ。

 脳筋だ。

 騎士になったら戦うだけが仕事なわけがないだろうに……

 いや、俺がそう思ってるだけで実際は戦い以外にする事ってあまりないのか……?


「ええい、ごちゃごちゃしゃべって和むでない! さっさと試合を始めるのじゃ!」


「おお、恐っ」


「うちの嫁には負けるがな。さあ、これ以上待たせて怒りを買ってはかなわん。始めるぞ坊主!」


「了ー解……だっ!」


 挨拶代わりにナイフで飛空を放つ。

 避けるかガードするかするかと思ったが、予想外にエムアルはそのまま体で受けた。だが、筋肉に当たった飛空は刺さらずはじけてしまった。攻撃などで弾くことはできるが、まさか体に刺さらないとは……どんな筋肉してんだよと俺は小さく悪態をついた。

 当の本人はほんの小さなかすり傷がついただけで、ピンピンしていた。


「ガハハハハ! なかなか速いが、威力が足りんな坊主!」


 ここで更に魔力を練り上げて威力を上げた飛空を撃つ事もできるが、魔力を使う分単発になって避けられやすくなるしどうも誘われている気がする……

 それに威力が高い別の技は至近距離での技が多い。あのオッサン相手に至近距離戦うなんて死んでもやりたくないけどな!


「やっぱし『極楽鳥』使うしかないかな……」


 本来広域攻撃用の技だけど、別の奥の手は対魔法用みたいなもんだし、このオッサンには相性がいいとは言えない。


「〈飛空の檻〉!!」


 考えを切り、様子見のためにシュマニ戦で見せた手数重視の飛空派生魔法剣を使う。ちょっと近い場所からだけど、どう受けるのか見せてもらおうか。


「小賢しい! この儂と共に数多の穴を掘り続けた儂のピッケルで全て掘削してくれるわ!」


 するとエムアルはピッケルを高々と掲げ、迷いなく降り下ろした。

 同時にピッケルに魔力が集まる。エムアルの魔力だろう白い残光をピッケルは引いていた。


「〈漢之掘削ノホト・オーヌ・ユハヌ〉!」


「やば……っ!」


 俺としたことが威力を読み違えた。一瞬だけ回避のために飛び退くのが遅れた。

 降り下ろされたピッケルは地面を物凄い勢いで爆散させた。その上飛び散った土砂は飛散していた魔力と混ざりわずかに硬質化、そして同時に発生していた衝撃波により押し出され、凄まじい勢いで俺に襲いかかってきた。

 当然飛空はほとんどが吹き飛び、時間差で残った飛空もわずかにかするだけだった。


 全力で飛び退いたから衝撃波に直撃は避けられたが、遅れたせいで土砂の回避まではできない。


 飛び退きながら両手のナイフに収束させた魔力を腕をねじりながら突きだし、拡散させる。


 魔法剣・渦咬嵐ヤトクサン


 渦巻きながら放たれる無数の魔力の渦はさながら獲物を探す大量の蛇みたいにのたうち回りながら迫る土砂を粉々にしていく。

 細かい土砂は煙幕のようになって視界を遮った。

 即座に五感を強化。するとこちらに正面からかなりの勢いで何かが迫ってくる気配がした。


「ぬぅええいぃ!!」


 案の定煙幕の中からピッケルを構えたエムアルが飛び出してきた。俺はまだ宙に浮いているから回避はできない。いくらかダメージを受ける覚悟をして再び魔力をナイフへと送る。


 魔法剣・剛閃ゾクエン


 ナイフを魔力で覆い、強度や切れ味を上げる魔法(ちなみにメルの闇断ちの光剣はこれがベースになったもの)だが今回は強度だけに重きを置く。

 上段から降り下ろされようとするピッケルに合わせて俺はナイフを重ねて構えた。


(よし! 体勢は悪いがこれで受け止め――)


 直後。俺は自分の選択が誤りだったことを直感した。

 降り下ろされるそれは速度も威力もさっきの一撃がなんだったんだと思うほどの破壊的な威力が一振りに凝縮された一撃。


 甘かった。


 そう感じたときには遅く、直撃を受けたナイフごと俺は押し潰されそうになった。いや、嫌な予感がしたとき咄嗟に下半身を引いていなかったら間違いなく押し潰されていた。

 勢いを殺しきれず、ナイフに引っ張られるように地面へと叩きつけられた。


「っ……! ガハッ!」


 俺はたまらず血を吐く。飲み込めない。


「ガハハハ! どうだ儂の一撃は! 長年伊達に掘り続けていたわけではないわ!」


 煙幕の中からあの笑い声がする。ナイフも片方ヒビが入ってしまっていて、もう時間の余裕はなかった。

至近距離で戦わずに決めるためには二本ないとキツい。素手で戦えないこともないが、得意の飛空の練度は絶対にナイフの方が高いし何より素手ではほとんどの技が至近距離で放つもの。エムアル相手には相性が悪すぎる。


「やってくれたな…… 次で決めなきゃ……」


 決められなければ、勝つのは難しくなると判断した俺は再び攻撃を受ける前に攻めることを選択した。

 全力で飛び上がる。ちょうど試合場が一望できる高さまで。


「どうした坊主! 降りてきたところで的になるだけだぞ!」


 だんだん煙幕が落ち着いて、俺が飛び上がったのが見えたらしい。


「降りる前にカタつけてやるよ!」


 両腕を翼のように広げ、魔力を込めながら大きく一度羽ばたく。

 そしてそれは、次第に姿を現す。


「な……!」


 エムアルが驚いているのがよく見える。


 離れて見れば、羽ばたく鳥の形に見えるからな。


「この量は相当キツいんだぜ……いくらオッサンの筋肉でも耐えられるか? 受けてみろよ!〈極楽鳥(ゾヌサ・ヌ・イーソク)〉!!」


 鳥を形作るのは、俺の飛空。ただ、隙間無く瞬時に作り出してほぼ同時に飛ばしているし、量は飛空の檻とは比べ物にならない。多大な魔力と引き換えに、体現することができる手数重視の魔法剣の完成形とも言えるものだ。

 本来は広範囲を一度に攻撃する技だが、おおまかだが狙いを絞ることもできる。今回は、観客席を除いた試合場を狙った。避ける場所はないから、エムアルがやることは……


「これはなんと見事な……だが、わるいの坊主、儂の勝ちだ!」


「ああ……わかってるよ、当たる直前にさっきみたく爆散させて、くらう量を減らして耐えるつもりなんだろ?」


 驚いた顔をしたエムアルに俺は左手を――

 ――割れて刃が無くなったナイフを見せた。


「悪いな。俺の勝ちだ」


 極楽鳥を放った際、魔力に耐えきれずヒビが入った左のナイフは割れていた。俺はその刃を剛閃で強化、投擲した。

 狙いは、エムアルの足。

「うがっ!? なっ、しまった……」


 飛空では無理でも、強化したあの固いナイフでなら刺さるのではないかと思い、一番痛い親指へ投げた。俺の狙い通り深々と刺さり、痛みで技を使うタイミングに間に合わなくなったエムアルは、機関銃のような音と共に全身を飛空で撃ち据えられ、音が止んで着地したときには全身血だらけで気を失っていた。

 派手に血が出ていてもあちこち切ったからであって、深い傷はない。多分、全身に受けた飛空の衝撃のせいで気絶したんだろう。


「ったく……マジで恐ろしいオッサンだぜ……おい! 早く治療しろ! 派手に血は出てるが表面だけで傷は深くない!」


「う、うむ! 勝者、カンタロー・アマミ! 治療魔術師は今すぐエムアルを治療室へ!」


 俺の横に倒れていたエムアルはすぐに出てきた城の兵隊達によって治療されながら運ばれていった。

 さて勝てたけど……ナイフ、どうしよ……


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