返り討ちってカッコいいですよね!されるのは嫌ですけど……
後の世で破壊の戦乙女と呼ばれた彼女の伝説はここから始まった。
「あなたの頭も破壊しちゃうぞ☆」
いや、師匠は何て言うか、桁が違いますね……
もちろん、元が人間の師匠があれほど強化されていたのは魔力によるものなんでしょうけど、素でもかなり強い師匠が魔法を使うとあそこまで強くなってしまうって考えると、「ああ、本当にこの人を目標に頑張るのは大変なんだな」って痛感しちゃいます。
何より試合前のあの加護飲料の飲む速度。あれは他の人達も驚いていました。そりゃ四秒もかからず飲みきってしまうなんて信じられないことだけど、師匠は本当に目の前で事も無げにやっちゃいましたから。以前修行中に見たことがありましたけど、それでも少し驚いちゃいます。
私も内緒で師匠の飲み方を必死に真似してやっと十秒位で一般的なボトルの量を飲みきれるようになったのに……
「貴女の師匠、やはりただ者ではありませんでしたか。相手も相当なやり手の筈でしたが」
師匠の勝利を聞いて色々考えてしまっていた私に槍を持った女の人が話しかけてきた。肌は褐色で、先の尖った耳。そして同性の私ですら「綺麗」と思ってしまうほど完璧に整った身体に顔! 間違いなく妖精族のダークエルフ。確か、私の次の相手の、クオルタ・オグリナさん。
「師匠は、凄いとかそういう枠に収まらない人なんですよ」
「そのカンタロー殿に教えを受けた貴女もなかなかの強さの様子。お互い全力で戦いましょう」
そう言うとそのまま控え室から出て行ってしまいました。キリッとしてる人なのになんだかとても色っぽい。私は自分の体に目を落として……
(一番の戦力差は胸……いや!私だってまだ成長の余地はあるしいずれは!)
ってそんなことを考えてる時間もなかったことをあわてて思い出して私も牛乳を飲んで準備を急ぎました。
「第二試合はシードで無いし、そろそろ私もいかなくちゃ……」
「緊張してるか?」
声を聞いてあわてて振り向くとオグリナさんと入れ違いに入ってきた師匠が立って私を見ていました。
「大丈夫です! へっちゃらですよ!」
嘘。
緊張しないはずがありませんよ。だってこの戦いは、私が私として初めて戦う試合なんだから。内心は緊張で今にも崩れてしまいそうでした。
でも、師匠は心底面白そうにしながら口を開きました。励ましの言葉でも頂けたら──
「今出てったやつに弟子の次は貴方だとか言われてな。お前が勝ってくれなきゃ俺やられちゃうぜ?」
!!
「いいか、メル。
──やっつけちまえ」
もう、大好きな師匠にこう言われたら緊張なんてどこかに行ってしまって、今の私は非常に興奮して、それでいて頭は冷静になってました。こんな簡単に、やる気を出させられる私って、やっぱり単純な女なのかな……?
師匠はそのあと軽く私の背中を押して、送り出してくれました。
「やっつけてきます、師匠!」
「あ、そうだ。盾に関して一つ教えてやんの忘れてた。ま、師匠からの簡単な伝授だと思っときな」
「……え?」
* * * * *
そして闘技場に着いた私を迎え撃つように立つオグリナさんと私は向かい合った。
「弟子である貴女を倒したら次は決勝で師匠である貴方を倒すと先程カンタロー殿に申し上げました。強い方に挑むのが生き甲斐なような者ですので、どうかご容赦を」
「そうですか。やっぱり師匠の言ったこと本当だったみたいですね。でも、私、しぶとさには定評があるので!」
そこまでで話をお互いに止め、武器を構えました。オグリナさんの体からは師匠のように時々魔力が見えた。おそらく体内で動かしているときに魔力が一瞬漏れるんでしょう。
師匠に収束したときとか移動させたときに、かすかに見えるくらいまで還元できなきゃダメと言われたことを私は思い出した。
多分、一流と呼ばれる人たちは皆これができると思う。できなきゃ話にならないんですね。
(でも、私も一週間前とは違うの!)
無言で私もまた魔力を全身に行き渡らせる。
「双方準備はよいな? では、開始じゃ!」
開始の合図と共にオグリナさんの槍が炎に包まれ、次第に炎は蛇のようにうねりながら槍に巻き付き、熱気により辺りが歪んで見えた。
「炎の属性魔法付与……!」
「ええ、私は炎の属性魔法が使えますが、専門家には及ばなかった。槍の方がずっと強かったので付与という形をとったまでです」
属性魔法はまず、使える人が少ないのが希少な理由の一つとしてあるらしい。なんでも、産まれたときにかなり少ない確率だけど相性が何かの属性と良いと使える見込みがあるらしい。まあ、私は使えないんで知ったことではないんですけど。
その相性によって属性魔法で魔力を変換できるものが違うらしく、炎か、雷か、はたまた氷か。どんなものができるのかは使うまでわからないけど、今でも数が少ないので全部は解っていないそうです。
そして属性魔法を纏わせる付与を初めて見れて興奮していると言えばそうなんだけど……
それが向いているのが私っていうのが問題だよね……
「はああ!」
オグリナさんは武器である炎の槍を構え直し、一矢となって突っ込んできた。師匠みたく剣で穂先を流してなんてことはこの威力相手じゃ私には難しいので、盾で横から力任せに殴るように弾く。
「熱っ! ……ちょっと奮発していい盾にしといて良かった……」
「まだまだです!」
弾いたことで軌道がずれた際にわずかに距離をとって仕切り直そうとすると、休む暇を与えないとばかりにオグリナさんは突きを連続で放ってきた。
片手だけだったら確実に防ぎきれずに穴だらけだったろうけど、今は盾も使うことでかすり傷くらいで防ぎきれている。
けど。
「守ってばかりで攻めてはこないのですか!?」
「くっ……!」
初速の速さが全く落ちないオグリナさん相手では、攻めに転じる暇がない!
盾でも剣でも受けるのを止めたら何発か痛いのをもらってしまう。もし私が耐えきれずそのまま押しきられたら……!
「メル! 冥族ってのはヤワじゃないだろ!? 受けて見せろ!」
今のは! 師匠の、声!?
ああ、やっぱり……辺りを探す暇なんてないけど、師匠はちゃんと応援してくれていたんですね……
「オグリナさん! まだまだ私はいけますよ。しぶといのが、私という冥族ですから!」
私は守りを盾だけに任せ、右手の剣を構えた。同時に、数多の突きのうち何発かが右腕に容赦なく当たる。でも私は冥族。気力と体さえあれば、耐えることはできる!
還元をできるようになり急激に魔力を流しこめるようになったから、この魔法剣も長い溜めは必要なくなった。
「〈魔法剣・闇断ちの光剣!!〉」
急激に光を帯びて大きくなった剣を痛みをこらえて即座に降り下ろす。
けど、多分これは──
「っく!」
当たらない。
師匠には真正面から吹き飛ばされた。吹き飛ばせずともオグリナさんなら多分ギリギリで避けられるだろうと思っていた。事実槍を引き戻して剣の軌道をわずかに逸らされて、横へと回避された。
「とてつもない威力ですが、当たらなけれ──」
それは私自身が一番よく分かってる。だから……
「だから、牽制に使ったんですよ」
「!! しまっ……!」
試合前、師匠はトドメの技を教えてくれました。もし、避けられることを見据えて教えてくれたんだったら、ここ以外で使い道は無かったと思う。
避けられた直後に砂ぼこりの中に紛れて全力の速度で懐に潜り込んだ私は左の盾に魔力を収束する。
だけどすでに回避は体勢が悪く無理だと考えたのだろうオグリナさんは、槍を引き戻して盾目掛けて突き出した。盾を破壊するか、もしくは距離を取るつもりなんだろう。
体勢は悪くても間違いなく全力の一突き。魔力強化無しだったら盾ごと貫かれてもおかしくないものでした。
今、ですかね?師匠。
『いいか? この技は魔力による身体強化と同時に盾から魔力を放出。攻撃に対してそれ以上の威力で反射をする簡単な仕組みだ。でも、ごくわずかな相手の攻撃が当たる時を狙わなきゃいけない。だからお前は絶対に──』
「──攻撃から目を、逸らさないで、迎え撃つ!」
破魔盾と教えられたその技の威力は、私の目の前に表れていた。オグリナさんは盾を突いたけれど、音と感覚からすると魔合金のミスリルを突いた感じだったんじゃないかな。自分の槍の威力にさらに私の魔法の威力も足して返されたオグリナさんの身体は吹き飛ばされ宙を舞った。
なんとか体勢を変えて着地はしたものの、槍は粉々に吹き飛び、手は治療を受けてもすぐには治らないくらいぼろぼろで、どちらも今はもう使い物にならなくなっていた。
でも、魔法技もあるだろうしまだ油断するわけには……
「……降参です。片手では槍は使えません」
……え?
「そこまで! 勝者、メルティナ!」
勝った?
勝ったの?
私、やっと……
「やったな、メル!」
振り向くと闘技場の扉のところで師匠が手を振っていました。
「師匠。私、やっと、初めて私として、戦って、勝てましたよ!」
自然と私は涙が止まりませんでした。
やっと、私が私となれた気がしたことが、何よりも嬉しかったから。
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