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子供だって容赦しないもんね



 王宮騎士大会までの数日間、俺はメルに魔力制御と還元を教えながら技の最終調整をしていた。

 目の前には敵に見立てた太めの木がある。

 体は十分に暖まっている。全身に満ちる魔力を感じながら、それを足と手に送る。


(……よし、大丈夫だ)


「──ふっ!」


 空気を引きちぎるような音を立てて、全力のスピードで木の周りを移動する。視界は急激に伸び、慣れていなければ吐くかもしれないものだったが、体内を強化することで対応する。対象の木のみを見据え、動きの中で飛空ミヌクを連発する。

 これにより、全方向から飛空が対象に向かってほぼ同時に嵐の如く飛んでいく。


 魔法剣・飛空の檻(ミヌク・オノーニ)


 時間にしてほんの数秒だが、きっちりと手応えがあった。スピードを落として止まると木と木の周りは飛空によってズタボロだった。


「まあある程度バラけた方が相手も動くんだしプラスになるかな?」


 いろいろ改良点はあるだろうがまだそこまでやる必要は無いだろう。

 俺はそのまま置いてあるいちごミルクを飲んで魔力を補給しようと思い、荷物のところに行った。


「あれ?」


 だが、そこにはいちごミルクは無かった。

 俺は即座に魔力を広げ、同時に五感全てを強化する。すると少し離れたところに俺から急いで離れようとしている奴が居ることに気づいた。


「今盗ったばかりか!ふざけやがって!」


 相手はさして速くなかったので、全力で追いかける。するとすぐに人の姿を見つけることができた! あまり大きくない体を見るに、子供か?

 いや、子供だろうが爺婆だろうがモンスターだろうが関係ねぇ!今日最後の糖分を奪った罪は重いぞコルァー!


「人の糖分を盗んじゃいけないってママに習わなかったのかああああああぁぁー!?」


「みぎゃああぁぁ!?」


 飛びかかった時に慌てて振り向いたコソドロを見ると、整った顔立ちの少女だった。だけど外見のわりには結構慣れた動きで……


「あ、気絶してら」


 びびったせいかひっくり返って気を失っていた。

 ……その時にスカートがめくれていたが心の中で煩悩を叩き潰して俺は少女を横に寝かせて手足を縛り上げた。




 * * * * *




「で、盗んだことに関して何か言いたいことがあるか?コソドロ少女」


「こっ、コソドロじゃと!?おのれ誰に向かって言っておるのかわかっておるのか!」


「あいにく人の物勝手に持ってくような奴にかける礼儀は持ち合わせてないんでな」


「な、なんじゃと!」


 うーん、なんかしゃべり方がお偉いさんのしゃべり方だけど関係ないよね!だって盗ったの向こうだもんね!


「さー、はやく十二字で謝らないと足の指に砂糖水かけるよー。虫がたくさん来ちゃうよー」


「いきゃあぁぁ! そ、そんなこと言ったって十二字なんて無理なのじゃー!」

「はいじゃあ、ばーん」


「かけたあぁぁ!いゃあぁぁ!虫が、虫がよってくるのじゃー!」


 あっはっはー。俺は甘いもん盗った奴に容赦なんかしないもんねー。しかしこれ端からみたら幼い子に砂糖水かけて喜んでる特殊な変態にみえなくも無いような気が……

 メルに見つかる前に終わらせるか。


「し、師匠、そんな趣味があったんですか……?」


 ……うわ。

 どう弁解しよう。

 なんか「わ、私だって師匠にされることなら……」とか呟いてるけどとりあえずスルー。


 で、そのあと事情を話して二人で尋問開始しようとしたんだが、メルが若干首を傾げた。


「師匠……なんだか私この子どこかで見たような気がするんですが……」


「なに?知り合いか?」


「知り合いな訳が無かろうに!それに妾の顔も知らんのか!なんとも無知な奴等よのう」


「…………」


「し、師匠?何に使うんですかその手にあるジヲクチヲクの名産ヨーグルトは?」


「この人の物盗んだことに謝りもしない小娘の背中に入れる」


「にぎゃあぁ!そ、それは謝るのじゃ!すまぬと言っておろうに!」


 俺が両手両足縛ってあるからこの子は動けない。て言うか結構前からじたばたし続けてるのにあまり息があがってない。見た目よりずっと鍛練を積んでいるのか……?

 だとしたらこの子は騎士の家の子か?それにしては言葉使いがどうも腑に落ちない。

(……高貴な身分、強い、少女、ババア口調…… いやまさか、それはいくらなんでも……)


 ガツン


 バシャッ


「あ」


 その声が誰のものだったのか……じたばたした小娘の足に当たって俺のいちごミルクが倒れて、中身が……こぼれて……


「えい」


「あひゃうぃ!い、入れたぁ!いれたぁー! きもちわるぃい!ぐ、ぐちょぐちょしてるのじゃあぁぁー!」


 そこからしばらくこの女の子をいじったあと、大人しくなったところで問い詰めることにした。

 しかしまあ、なんともいじり甲斐のあるやつだなこいつ。


「あーっ! し、師匠!この子わた、私っ知ってましゅ!」


 だがさっきまで頭をひねっていたメルが急に隣で絶叫にも似たでかい声をあげた。


「い、以前王都で、み、見たのれす!わたっわたし見間違いじゃなければ、べべ、ベルウィエッタ様です!ジヲクチヲクの、王族、ベルウィエッタ姫様でしゅ!」


 噛みまくったあげくろれつが回ってないが今のでわかったのか俺の目の前の小娘は急に勝ち誇った笑みを浮かべやがった。


「にゅはははは!わかったであろ?お主達が今まで狼藉をはたらいておった相手はこの妾!ベルウィエッタ・デル・ジヲクチヲクなのじゃ!これだけのことをしたのじゃ!ただで済むと思わぬこと「てい」うんにゃああぁ!止めよ!背中をこするなぁ!あああああヨーグルトが広がっていっておるのじゃー!」


「姫様だっつーのはわかってたわ」


 俺がそう言うとすぐにベルウィエッタ姫の表情には焦りが表れ始めた。


「うう嘘を申すな!」


「しゃべり方。鍛え方。雰囲気。貴族ならば女の子に完全な訓練をする必要はない。騎士の家の子にしてはしゃべり方が不釣り合い。王族ならば高貴でありながら鍛えることもしているだろう。歳も見たとこ大体一致すらぁ」


「そ、それではお主、妾が姫と知っておってあんないたずらをし続けておったのか!?」


「……姫様、あんたは泥棒。俺は被害者。裁かれる筋合いは無いね」


 そう。これは正論。だから俺は圧倒的アドバンテージをそのままに『お話』ができる。


「さて、ここにいた理由は目的は知らんが大会参加者を見て回っていたからだろ?」


「!」


「図星か。でも、俺が聞きたいのはそっちじゃない。どうして俺の加護飲料を持っていこうとしたかってことだ」


 これなのだ。

 俺が一番わからないのはこれだ。確かに珍しいだろうが、姫様ともあろう人がわざわざ盗む理由にはならないだろう。

 だが、返ってきた返事は俺が想像していたことを上回るものだった。


「…………飲んでみたかったのじゃ」


「は?」


「牛乳に似通った魔力を漂わせながらも全く異質な飲み物に興味を示すなという方が無理というものよ!妾は飲んでみたいのじゃ!妾が知らぬ飲み物を、今与えられておる物だけで満足するなど愚の骨頂!妾は姫であるが故、世界の全てを体験するなど不可能かもしれぬ。でも、妾はそれでもこの世界の未知を知りたいのじゃ!」


 ああそうか。ここは異世界だった……

 全てが俺の物差しで測れる訳じゃなかったと自分の認識のズレを感じて、そして飲み物ひとつでこうまで純粋に覚悟を決められる子がいたのかと俺は目を丸くした。


「……感服したよ。姫様。しかし、人の物を盗んだのも事実。

 ──だから許す代わりに、明日の大会が終わって、俺が優勝したら、残りの他の王宮騎士を指名する時、俺が選んだ奴を一人任命してほしい。それで、チャラだ」


 俺は狼狽えていたメルに聞こえないようにベルウィエッタ姫様の耳元でそう囁きながら縄をほどくと姫様はぽかんとしていた。


「そ、そんなに自信があるのかお主?」


「ああ。俺は明日お前の騎士になるから」


「……よかろう、約束は守るぞよ。では妾はこれで帰るのじゃ」


 そう言い残すと姫様はすぐに走り去っていった。

 これでもう負けることはできなくなったが……逆に圧倒的に勝てば文句は言えないはずだ。それにここまで言えば姫様も何かしらアクションを起こすだろうしな。

 だが、それは建前。俺の本命は任命権よりとにかく全力を出して戦ってみたい……!

 あわよくば姫様がその方向に動いてくれるよう。

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