自分を認めるから他人も認める
メルティナは気に入っています(*^_^*)
女神はもっと気に入っていますo(^▽^)o
「くっ……あああああああっ!!」
「ほらほらどうしたよ!」
「なんで……なんで……!!」
素早い撹乱の中で、四方から飛来する斬撃。威力はなかなかだが速度が遅く、問題なく対応できる。って言うか俺どんだけイズールドさんに強くされてんだよって内心ツッコんだね。だって普通に避けられんだもん。俺、普通の学生だったのにこんな某戦闘民族みたいな強さにされちゃってるんだもんよ。
と、メルの技はまだ飛空しか見ていない。精度はいいからおそらくこれだけということはない。だから他の技への警戒は怠らない。
魔法剣・飛空は剣に纏わせた魔力を飛ばすシンプルな技であり、武器は違えど魔力を飛ばす飛空の魔法はあらゆる魔法の原型とされている。故に、これを徹底的に極めるとここから独自の魔法へと昇華させることが可能となる。例えば、魔力を飛ばさずに叩きつけて威力を上げたり、放つ瞬間放射させ目眩ましや威嚇もできる。
さらに独自の型や動き、組み合わせをしていくことで今の様々な武器の魔法ができ、また、武器のような触媒を使わずに使う魔法技、専門的な魔法使いだけだが魔力を炎や水などに変える魔力変換をして、それを操る属性魔法が生まれていったとされている。
と、まあそんなわけで、飛空の精度が良いメルがこれしか使えないってことはないはず。魔法剣もなにか使えるはずだし、そろそろ出してもらいたいから一押しするかな。
「なあメル。もうこの技じゃ俺に通じないのわかっただろー?もっと凄いの見せてくれよ」
すると少し離れたところにメルが止まった。
息があがって、顔には明らかに焦りと驚愕が見える。なんで当たらないのかってのもあるんだろうが、おそらく俺がした要求に対するほうが強いみたいだ。
「……なんの、こと……ですか?」
「息あがって誤魔化せると思うなよ?踏み込みの甘さ、魔力のまばらさ、なによりまだ諦めてないその目が言ってるぜ。『もっと凄いの持ってますよ』ってさ。大会で使うつもりなんだろうけどお前、大方まだ人に向けて使ってないからためらいでもあるんだろう?遠慮すんな。使って大丈夫さ、俺だし」
「…………っ!!」
ほんの数秒。
止まったメルから次に出た言葉は、
「凄いですね、カンタローさん」
称賛の言葉だった。
そしてメルの話は続く。俺としては少し興味があったから聞くことにした。
「私、おとぎ話の勇者みたいな騎士になりたくて、頑張ってたんです。でも、あのとき、酒場で私をバカにして戦いを挑んできた男をやっつけたときに気づいたんです。まるで勇者をなぞっているようだって。かのおとぎ話の勇者、テシヲク様も酒場で初めてなめて襲いかかってきたごろつきを一瞬でねじ伏せて一目おかれるようになったんです」
……まさかそれで英雄と勘違いしたとでも?
話を聞こうと思ったのは俺だが、俺は頭を抱えたかった。こいつ、どこまで頭ん中お花畑なんだ!と頭の中で悪態をついた。
「本来ならこのあと勇者様はドラゴン退治の依頼を受けて、その時自分を超える強さの相手に挑み、自分の素早さと新しい魔法によって見事ドラゴンを討伐したんです」
完全に俺は頭の中は冷静になっていた。この娘は危険だと頭は判断した。放っておけば、確実に危ない。心では頭を抱えるほど動揺していた俺だが、目の前の興奮した様子のメルがいることが俺の頭を逆に冷静にさせた。
頭の中での結論を今一度反芻する。
「だけど、ドラゴンと人との差なんてあまり関係ありませんよね!なら私もカンタローさんを倒します!勇者様の魔法のような、自分で創った、私の魔法剣で!」
──とっとと折ろう。
メルが作り出したそれは、剣を二回り以上大きくした光の剣だった。当たれば、俺じゃなくてもかなりきついだろう。たしかにこれは、勇者が使うような派手な技だ。
だけど、これ以上はしない。もうおしまいだ。
俺は大きく息を吸い、
「魔法剣・闇断ちの光剣!」
俺に振り下ろされるその剣に向けて、
「かあっ!!!」
──吐き出した。
「えっ……」
何も、残らない。
残さない。
* * * * *
俺とメルの訓練と言う名の戦いを終えた後、闘技場の真ん中でメルは立ち尽くしていた。あの技の後、メルは一度気絶してしまって、辺りはだいぶ暗くなってきてしまっていたが、起き上がってから一向にメルは動こうとしなかった。
(……女神)
何とはなしに呼んでみる。本当に意味はない。
『どうしたの甘ちゃん?……あら……メルティナちゃん……』
訓練の前、女神にはこれからメルを挫折させると言っておいた。
(思ったよりかなり危険なとこまで盲信していたから……)
『でも甘ちゃん。あなたがやったことなのだから、責任は持たなきゃだめよ』
(……わかってる。それで、女神。勇者テシヲクって何族だったんだ?)
『ん?確か……獣人族だったかしら。女の子のあのかわいい耳が良いのよね~!男は全身毛深くて暑そ──』
(あ、もうそんくらいでいいわ)
最初から俺とメルの勝負は五分五分の公平な戦いなんかではない。ま、そういう意味ではメルが俺のことをドラゴンと形容したのもあながち間違いではないかもな。ただ、勇者が勝てたから自分も勝てると言うのは間違いだ。全く同じ力の正々堂々とした勝負なんてそもそもないのだから。
だけど、この娘が自分が負けてない事に気づければ、きっと──
俺はゆっくりメルに近づいた。
「カンタローさん……どうして、そんなに強いんですか……?」
「お前が勇者だなんだと言って依頼をサボってる間にも俺は特訓し続けてたからな」
「じゃあ私がカンタローさんと同じ特訓していたら、あなたを越えられていましたか!?」
「そりゃわかんねえよ。お前の戦うところも才能も技も俺は見てないし」
「……?何を……さっき見たじゃないですか!私はあなたに負けたんですよ!?」
「さっき?ありゃ勇者テシヲクの超劣化版だ。お前じゃないだろ。お前はどこにいたんだ?」
「な……!!」
ああ完全に怒ってるな。事実なのに、これっぽっちも気づかないのか。
「だってそうだろ?獣人族の勇者テシヲクは種族的に素早いからそれを生かす戦い方をしていた。だが、あの粗悪品は冥族としてのアドバンテージすら使わない戦い方をしていた」
「っ……」
「もう一度聞くぞメルティナ。冥族としてのお前は、どこにいた?」
目を見開いて動かなくなったメルに構わず、俺は話を続ける。
「勇者に憧れるのはいいさ。でもいくら真似ても勇者テシヲクそのものになんてなれないんだよ。挙げ句不完全なままでの慢心。滑稽なんかを通り越して……憐れだ」
「わ、私、は、そんな、こと……ちがう……ちがうの……」
俺の言葉にメルの顔は更に白くなっていた。
体の両脇できつく手を握り締めて、体は震え出した。
(……完全に折れて……ん?)
この時俺は自分の失策を呪った。涙目になっていたからだ。正直、ちょっと考えれば泣くくらいのことはわかってたろうに、完全に忘れてた!まずい、泣かれると話が進まなくなっちゃうから!
「ふっ、くっ……わあああああぁぁん!」
……そのあとメルは完全に泣き出してしまい、落ち着くまでしばらくかかった……女の子の涙は反則だと思う。
「うっ……うっ……」
やっと落ち着いた時にはメルは涙と鼻水でもう元気な綺麗な顔もくしゃくしゃだった。
「……勇者ってのは、後から言われるもんだ。お前が誰かの命を助けたら、その人にとってお前はもう勇者なんだ。だが、お前がお前を認めていないで戦い続けていれば、助けられるものも助けられない」
「グスッ……はい」
「まずは、お前がテシヲクではなくメルティナであることを認めるとこからだ。お前がお前を認めてないのに、他人がお前を認めてくれるわけがないだろう?そしてお前らしく戦えればきっともっと強くなれるさ」
真剣にメルは俺の話を聞いていた。ぐずりながらもしっかり自分の中に刻んでいるみたいだし、心に整理がついたらもう大丈夫だろう。
「……し」
ん?「し」?
「師匠ー!」
「師匠ー!?」
とっさのことで避けられなかった俺は泣きながらメルにしがみつかれた!
あっ!ちょっと!は、鼻水と涙で俺の服がぐちゃぐちゃに!自重してお願いだから!顔埋めながら泣かないで頼むからあぁ!
「師匠!わたじ!いっじょうづいでいぎます!」
「……めんどくさいしもういいや」
『いいのね……』
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