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さあ、お仕置き兼メンタルケアの時間だ。



戦闘開始\(^o^)/


甘太郎は気まぐれです( ´ ▽ ` )ノ




「カンタローさーん……なんか私緊張してきました……」


「……あ、うん。案内してくれる人がそれじゃ困るんだけど……」


「それはそうなんですけど、ここまで近づくのは初めてでして……」


「大丈夫かよ……?」


 だが、無理もない。王宮へと近づく度に、だんだんと体が強張っていくのが自分でも分かるくらいだ。

 朝起きた俺は部屋を出て早々メルに捕まり、大会への申し込みのために半ば強引に王宮へと連れていかれた。


 最初こそ「ただ申し込むだけ」という気持ちがあったから楽にしていられたものの、今では何か特別な使命を帯びているかのような緊張があり、俺の足を固くしていく。王宮が見えた頃には最早意識して動かさねばならないほどだった。


「近くで見ると凄いですね……」


「確かに……」


 正門にたどり着くと、俺とメルは眼前にそびえ立つ王宮の威容により、完全に萎縮してしまっていた。

 敵を寄せ付けない為の頑強そうな石組みによる壁、一本一本が見上げる程高い尖塔、そして、全てを見下ろすように翻る純白に紋章が描かれた国旗(だと思われるもの)、それら何もかもが威厳を持っているようで、こんな場所に俺がいるなんて場違いなんじゃないかと感じてしまい、俺の心は押し潰されそうだった。現代日本では見れなかった、王が住む城とは、かくもとんでもない物なのかとカルチャーショックを受けた。全くもってケータイが無いのが悔やまれるよ。


 目の前の門は大きく開いていたが、近くにはこれまた白の鎧に身を固めた兵士が何人も陣取っていた。


「王宮に何か御用だろうか?」


 近くの兵士が俺たちに話しかけてきた。だが、手は剣の柄にのびていて、いつでも抜刀できる状態だった。やはり王宮警護となると選りすぐりの者なのだろうか?

 とはいえいつまでも気圧されているわけにもいかないからな。俺は「よし」と気持ちを切り替えた。


「失礼。大会への申し込みはここでできると聞いたのですが」


「ああ、大会参加希望者だったか。それならば私が案内しよう。そこの君もか?」


「あっ!はい!」


「では、ついて来てくれ」


 俺とメルは門をくぐり、本丸まで案内された。

 外には彫刻のようなものはなく、外見は武骨なものだったが、入り口を通ると中は開けていて、なおかついい具合に絵がいくつも飾られていた。肖像画、モンスター、色々あるがどれも印象の強いもので、おそらく芸術にも理解があるであろう王の心を感じさせるものだった。

 その場の真ん中に受付があって、女性が座っていた。受付嬢だろうか?……猫耳がついてる。あれか、萌えたら敗けってやつか?


「では私はこれで。あとは任せたぞカロン」


「はい、承りました。それでは、私はこの城のメイド長をしておりますカロンと申します。お二人とも大会への申し込みですね?」


「へっ?メイド長?何で……」


「いやまあ受付の仕事をゴツい兵士がやってたら嫌だろ?」


「あ、確かにカンタローさんの言う通りですね」


「あのー、申し込み……なんですよね?」


 おっと。

 うっかり話がそれていた。俺の目的は大会への申し込みだ。


「ああ」


「はいー!」


「ふふ、ではこちらの用紙に名前などをご記入下さい」


 渡された紙に書いていく……んだが、一番最後に恋人の有無を書く欄があるのはどういうことなんだ……!?


 ……とりあえず無し、と。


「……いないんですね?」


「……何か?」


「いいえ、何でもありません」


 なんだ?

 彼女っていなくちゃいけないのか?付き合ってるやつはそんなに偉いのか?

 と、俺がひがんでいる間にメルは書き終えていた。急がないと。






「ではこれで登録完了です。一週間後にここを出て右にある闘技場で昼から予選が始まりますので、それまでの間は闘技場は私に言っていただければご自由に使って結構ですよ。とは言っても皆さん腕に覚えがあるのか全くお使いにならないんですけどね」


「それじゃ今すぐ借りてもいいんですか!?」


 俺が説明を聞いていたとき、急にメルがカロンさんに身を乗り出して聞きだした。


 あ、もしかして。


「カンタローさんの特訓は騎士としてちゃんとお手伝いしますよ!牛乳飲んできましたし準備も万全です!」


「そ、そうか。それじゃ、行くか」


「あ、カンタローさんちゃんと飲んであります?手合わせするのに飲んでないことは無いですよね?」


「うん。でも魔力を使うのは身体強化だけのつもりだけどね」


「え?」





 * * * * *





「……いいんですか?」


「ああ、構わない。本気でやってもらわなきゃ緊張感のある持久戦訓練にならないから」


「……わかりました」


 ちょっとプライドが傷付いたのか、額には青筋が浮かんでいた。

 そもそも持久戦訓練なんて真っ赤な嘘だが、他にハンデを無意識に付ける理由が思い付かなかったから仕方ないだろう。

 と、考えているうちにメルの全身に白い魔力が目に見えて収束されていく。


「後悔しないでくださいよ?」


 俺がナイフを構えたその瞬間。

 いきなりメルが飛び込んできた。

 右手の剣がまっすぐ突き出される俺の胸を狙った一撃。スピードも申し分ない。確かにこれなら大体のやつは当たれば一撃で意識を持っていかれるだろう。


 当たれば、な。


「な……!」


「やはり舐めてかかってきたな。俺の事を無意識に自分より弱く見ていたな」


 別に特別な事はしていない。メルの剣のスピードより速く身をひねってかわしただけ。

 魔力を使って感覚を研ぎ澄ましていた俺にそんな単調な突きが当たるわけがないだろ。


「……驚きました。カンタローさん、思っていたよりずっと速いんですね」


「いや、お前が全力を出せてないから弱いんだよ」


 メルの片眉がひきつるように震え、表情も一気に怒りが表れ始めた。俺が狙ったのはまさしくこれなんだがな。


「なら、私の本気で行きます!」


「最初からやれよ」


 するとメルは魔力を剣に収束した。

 体にはおそらく移動に使う分の魔力だけを残しているんだろう。さっきよりも見える魔力が少ない。


 だが、目に見えるというのは、あくまで魔力を移動、収束させるときの微妙な動きの時だけに見えるべき物なんだ。常に見えているのは、収束した後余剰分がただ漏れているに過ぎない、無駄な魔力だ。イズールドさんに鍛えてもらったときに、一番最初に徹底的に教え込まされたのは魔力を漏れさせず、あますことなく自らに還元すること。それをするかしないかでは、技の威力も戦闘していられる時間も劇的に違う。


 これすらできず、ただ多い魔力に物を言わせた戦い方がいかに無駄か教えてやらなきゃな。

 心をへし折るのは、多分その中で出来るだろう。


「はあっ!」


 また真正面。俺の肩から斜めの袈裟斬り。だが、スピードもパワーもまるで別物だ。

 右手のナイフの腹で剣を外側に流しつつ左で次の剣に備える。

 だがメルは次を打つ前に俺の周りをかなりのスピードで縦横無尽に動き始めた。


「はあああああっ!!」


「いいねぇ」


 最早目では追いきれないので、俺は魔力で聴覚と嗅覚、触覚を更に強化することで対応する。

 頭、腕、足、体、全身を狙って見えないところから切られるが、近づいた時には分かっているからかわすのも受け流すのも難しくはない。


 全ての攻撃を何事もないかのように対応する俺を見て、次第にメルも焦りが出てきたのか、表情に曇りが出てきた。だが、これではまだ心は折れないだろう。

 だから、もう一押しする。精神的にキツい、あの表情を。


「っ!? な……何がおかしいんですか!」


「いや、嬉しくてね」



 剣撃の雨の中で、俺はまるで気にしていないかのように笑って見せる。

 ──何をしても笑みを絶やさない──

 これが、俺の一つ目の精神攻撃だから。


 彼女のためにも容赦はしない。そこに多少の仕返しの意味もあるが、それでもメルがだめになる前にケアも考えている。だからこそ、心を折るのに躊躇いはないのだから。


 さあ、どこまで立っていられるかな。

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