人魚と
分かりずらいと思うのでちょっと設定を。
科学と、魔法がある世界。だということで
私は大量に海水浴飲み込んで、ぐったりとした男を浜辺に横たえた。
顔はなかなか渋くていい、二十代ぐらいか。
豪華な船に乗っていたところを見ると、それなりにリッチな貴族だろう。
それも爵位も高いと見た。
船内で、誰もが跪き、男を敬っているようだった。
暫くすると男がごほっ、とむせかえる。
四つん這いになったので、背中をさすってやった。
だいたい、そんな煌びやかで、重々しいモンを着ているから沈むんだ。とは言わなかったけど。
「ちょっと。大丈夫??」
海水を吐き出したからか、幾分か顔色も良くなった。
「………君は…………」
私をみてた男は、エメラルドグリーンの瞳を見開いて口をぽかんと開いて間抜けである。
具合も良好、意識は……はっきりしている。
よし。
「私があんたを助けたからには、恩義ってもんがあるわよね??」
「――あ、あぁ。そうだな。」
いきなりの台詞に、多少面食らいつつも男は頷いた。
「助けてやった替わりに、海を綺麗にしろ。そんで、環境に優しい船にしろ。」
言い切ってから、ちょっと上から目線だったかな??と思うが、まぁいい。
私の国(海底)にまで、船の"もーたー音"とやらがうるさくてかなわん。
(騒音問題だし)
"油"とやらも海面に流れ出し、密閉されて空気が悪くなる。
(環境汚染だし)
先日は鉄の塊である"潜水艦"とやらが、城のスレスレを通過していったし。
(自治権問題だし)
…………侮れんな、人間。
かってに人魚を想像の産物だと言って、私達の国に壊そうとするとは。
「――わかった。」
金髪、エメラルドグリーンの瞳の男は力強く頷き、右手を差し出す。
握手か、と自分も右手を伸ばしたのはよかった。
だが男は何を思ったのか、私の掴んだ手を引っ張る。
当然、ヒレ(??)立ちしていた私は、男の方へと倒れ込む。
男は仰向け、その上に私である。
慌てて起き上がろうとすると、男の手が腰と背中に当てられていて、起き上がれない。
「ちょっと!!」
は・な・せ・!!
あんたは分かってない!!
ウロコを覆う粘膜がどれだけ大切かを。
いかに海水の抵抗力を下げ、泳ぐのを手伝うのかを。
それはそれは本気で腕を突っ張っても、男の力にはかなわない。
寧ろ、男の手は腰から下へ、と下がっていく。
「やはり、人間とは構造が違うのか……」
チッ、と舌打ちをしたかと思うと男は私を見上げる。
顔近っ!!
「貴女の名前は??」
「助けてやったんだから、自分から名乗りなさいよ。」
「俺はセディア=イリイーゼ。」
「……ルルリア」
「ルル、とよんでも??」
「…………構わないわ。」
ルル、と呟き男――セディアはとろけるように笑った。
間近でその色気たっぷりな微笑みを目撃さたルルリアはちょっとだけ、ほんのちょっぴりときめいた。
(私の知り合いにはこういうタイプはいないわね。免疫が流石にないわ。)
ちょっぴりときめいた後に、のんびりと感想を持った。
そう。のんびりしていた。
くすっと、セディアは笑うとルルリアを抱きすくめる。
止めなさい!!と言うルルリアの声を無視して、腰を撫で回す。
そして、ルルリアが下の手を気にしている間に、華奢な首筋へと顔を寄せ、赤い華を咲かせていく。
「ちょっと、何してんのよ!!あんたタコなの!?」
タコは時々、自分よりでかい生き物を捕食する。
小さい頃は擬態に騙され、うっかり食べられそうになったことが何回かあったせいか、あまり好きではない。
タコと形状が違うからと言って、警戒を怠るべきではなかった。
自分の縄張り、いやそもそも縄張りどころか、海のなかでさえない。
人型のタコだと勘違いしたルルリアだが、彼女は俗にいうキスマークを知らなかった。
だんだんとセディアは痕を残しつつ胸元へと降りていく。
その頃になって、ルルリアはタコとちがくね??と思い当たるが、最早セディアを止める術はない。
「……セ、ディアっ」
セディアの袖を掴み、ルルリアは静止を訴えるが、目が潤んだ状態でのその仕草はだだ男を煽るだけであった。
もちろんセディアは男である。
例外なく煽られた。
かろうじてその柔らかな胸元を覆う貝に、ためらいなく手を伸ばした。
が。
「まぁ、セディア様っ!!」
婚約者の第三候補者が悲鳴を上げながら走りよってきた。
シルフィアである。
「あぁ、セディア様!!あなた様の船で、セディア様が消えて戻っては来るではありませんか!!私、生きた心地がしなかったのですわ。」
セディアの横にシルフィアは座り込み、さめざめと泣いた。
だがセディアの眼中にはシルフィアは含まれていなかった。
寧ろ、邪魔者として認識していた。
シルフィアはシルフィアで、セディアの反応がないと知り、標的をセディアの上に乗っているルルリアに移した。
「……ちょっと、貴女。何時までセディア様の上に乗っているのです??浅ましい体を晒して……。セディア様を弄ぼうったって無駄ですわ。セディア様は【光】をお持ちなんですもの。」
【光】が何であろうが知らないが、クスリ、とわらうシルフィアにルルリアはいらっときた。
「へぇ、人間の権力者ってこうも心が汚い連中なのね。」
売り言葉に買い言葉。
「っまるで売春婦のようなセイレーンですわ!!セディア様、浅ましい売女はほおっておいて、さっさと帰りましょう!!」
気位の高いシルフィアは逆ギレする。
「ばいしゅんふ??がなんだか知らないけど、セイレーンですって!?よくみなさいよ!!セイレーンは魔物よ!!私は人魚!!よぉく目をかっぴらいて見てみなさいよ!!」
シルフィアの言葉に自尊心を傷付けられたのか、悔しそうにルルリアは唇を噛んで、自身のウロコを指差した。
【光】というのは、もしや破魔の魔法ではなかろうか。
魔物でないと証拠に【光】を掛けてみろ!!とはいわなかったが、ルルリアの顔はやってみろといわんばかりだった。
邪魔者はスルーして、ルルリアをずっと見つめていたセディアだったが、ルルリアがその邪魔者のせいで心を痛めたらしい。
ルルリアが噛んでいる唇にそっと指で触れる。
「……城に戻れ。」
セディアは横目でシルフィアに命令する。
だが、シルフィアは嫌々、と首を横に振った。
「早くしろ。」
そうはいったものの、涙を零すシルフィアは立ち上がる気配がない。
溜め息をついたセディアは上着を脱いで、首を傾げるルルリアに着せる。
袖を通さずにボタンをしても、上着にはまだ余裕がある。
早くその肌に触れたくとも、まだまだ乗り越えねばならない障害がある。
いまは待つことが重要、か。
取りあえず、先にかたすべき問題を思い出し、シルフィアに向き直った。
「――あぁそうだ、あんたの配下が俺を船から落としたのは知ってる。」
その答えに、覚えがありすぎたのか、シルフィアは体を強張らせ、顔を真っ青にして絶句した。
あんなお粗末で陳腐な行動を知られてないと思うとは……。
図太いのか、はたまた浅はかな馬鹿なだけか。
首謀者までは分からないからあえてその罠にはまり、船上から海へと落ちた。
だが意外と着衣水泳は難しく、本気で溺れそうになったところを、ルルリアに助けられた。
シルフィアの計画では、自分が助けたように装いたかったのだろう。
それで、自分が王妃に、と言うところか。
「ジェイス。」
ぱちん、と指を鳴らせば、どこからともなく黒ずくめの男が現れる。
「セディア。」
「ジェイス。引っかかったぞ。」
黒髪、茶色の瞳、引き締まった体をしたジェイスは溜め息をついた。
散々自分の主に囮は危ないから辞めろと言ったのに。
結局誰にも言わず決行したらしい。
「……これで、お妃争いは更に混乱を極めますね。」
「ああ、心配ない。妃はきめた。」
「なっ、まだ勢力を掴み切れていないのですよ??」
思わず天を仰いでいたジェイスだったが、溜め息を付くどころではなくなった。
「心配するな。貴族の勢力など関係無い。」
「……庶民の方ですか。」
セディアの言葉にジェイスの顔は曇る。
庶民を娶るのは確かに貴族の勢力は関係無いが、色々と面倒だ。
くつりと笑ったセディアは、前代未聞の答えを告げた。
「人魚姫だ。」
確かに、セディアの腕の中からピンクのヒレがでている。
黒い髪から、白い肌が覗く。
どうやら(彼女は)眠っているようだった。
神秘的な深い蒼の瞳は閉じられている。
早く自分を見てほしい、と願いつつ、それを愛でるセディアは今まで見たことのないほど、ドロドロにとろけきった顔をしている。
その顔見て、何を言ったところで無駄だとさとるジェイス。
「……分かりました。人魚なんて珍しいですね。一般的にはもう迷信の域に達してるじゃないですか。」
「そうか??」
寝ている人魚姫の頬を撫でながら答える。
きっと、自分を助けたから疲れたのだろう。
いくら泳ぐことが得意な種族とはいえ、華奢な彼女が自分を運ぶのには大変だったはず。
その様子を多少呆れつつ眺めながらも、逃げようとしたシルフィアを捕まえジェイスは移転した。
セディアの言いたいことを聞かずとも、大体分かってしまうのは幼なじみだからか。
たいがい言われる前に行動するジェイス。
セディアは自分の上着を着せたルルリアの頬に、感謝と愛情の口付けをひとつ落とすと、自分の部屋へと移転したのだった。
おわり
初★短編 パロディー、やりたかったので
それにしてもご都合主義でしたね……
ルルリアはセディアから逃げられない(笑)
ありがとうございました!!