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第57話【現在】破壊の王、あるいはただの人間

 ―― 一瞬、気絶していた。

 身体が強制的にシャットアウトされるまで記憶を見せつけられて気分は最悪だ。

 それでもなんとか、気力だけで陛下の背中にしがみつき続けていた。

 ……たしかにあれは、陛下が我を忘れるほど怒ってもしょうがないのかもしれない。

 陛下の中での「かくあるべし」は――「この国、滅びろ」と思っているのだろう。

「こんにちは! 自殺志願者です! どうぞ殺してください!」みたいな暴言のオンパレードの数々だった。


 愛が重い!! とか、記憶に関して色々と言いたいことはある。だけど、まずはこの状況を止めなければいけない。

 生理的に出た涙が、一瞬で凍った。まぶたを無理やり開けたらべきべきと音がした。

 かすれる目で前を見れば、陛下の記憶の中に出てきた貴族たちが倒れていた。

 口、股間、手、目が「破壊」された姿だった。


 ああ、そうか。

 陛下の適正は「破壊」だったのか。

 これほど、皇帝になるのにうってつけで、それでいて皇帝となってから不要となる能力があるだろうか。

 それも「目に入るものを全て破壊する」――なんて強力な適性、あの二人と皇位を争うにあたり、絶対有利だったろうに。


 発言の数々が「病んでる」とは思っていたけれど、あの記憶を見たあとでは壊れるのも仕方ないのかもしれない。

 アリアナは、気づかないうちに“化け物”として、陛下を救っていたのだ。

 同時に、私の死は陛下に消えない傷をもたらしたことを思い知る。


 それにしても、“血の守護騎士”、”英雄”、”人”、”兵器”、”騎士のフリをした奴隷上がり”、”化け物”……随分と属性が増えてしまった。


 アナスタシアの属性は”人”しかない。

 だから、人間らしいやり方で陛下を取り戻そう。


 ――魔法というものを行使するにあたり、何よりも重要視されるのは「メンタル」である。

 貴族学校でも行われる魔法の授業でも、その殆どが理論とメンタルケアために費やされる。意外と実践的な授業というのは少ない。実践は授業時間以外の任意の訓練時間で行うのだ。

 どれほど強大な魔力を持っていたとしても、感情的だったり、不完全であればそもそも魔法が発動しないか、あるいはこうやって暴走する危険がある。

 実際の戦でも、味方には耳栓をさせ、接敵した瞬間に花火をあげさせ、敵の魔法使いを無力化した……ということがある。


 Q 格上の魔法使いと戦う場合の有効策は?

 A  メンタル攻撃をしかけましょう。

 ――というのは、冬の国の教科書に載っている定石である。


 あの記憶を見たあとに、これを言うのはとっても勇気がいるんだけど……。

 ベンジャミンには勝率八割って言ったけど、あの記憶を見たあとだと即死三割くらいかもしれない。

 なるべく場違いで、下品な言葉遣いを考えた。

 陛下の怒りが収まるくらいの特大級の花火となるように。

 私は、陛下の耳元で、この場にそぐわないとびきり「下品な花火」を囁いた。


「―――――――――――――――――、―――――――――?」


 荒れ狂う魔力の奔流が、止まった。


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