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第56話【現在】破壊の王、あるいは可愛い化け物

 ――幼き日の思い出。

 母の膝に抱かれ、姉に花冠をつけてもらい――笑っていた。


 くっちまおう、くっちまおう。

 僕の中には、いつも化け物が居た。


 ――母と姉の死に顔。

 毒で苦しんで、目は恐怖で見開かれていた。

 最期まで苦しんで死んでいった。僕は何も出来なかった。

 何度も口を開いた。「調べてください」「犯人を探してください」

 父の目が、こちらを向くことは無かった。

 母の代わりに、母を殺した女が皇后になった。


 くっちまおう、くっちまおう。

 化け物は叫んでいた。

「一緒に壊そう」「こんな国」

 僕は、耳をふさいで聞こえないふりをした。


 僕の適性は「破壊」だった。

 こんな適性、いらなかった。

 バレたらきっと殺される。

 臣下はきっと「使え」というだろう。

 隠さなければいけない。そうだ、無能なふりをしよう。

 得意魔法は有りません。

 兄様たち、僕は皇位に興味はありません。

 だからどうか、殺さないでください。

 僕は死にたくない。母や姉のようには、死にたくない。


 ある日、可愛い化け物に会った。

 僕よりも小さいのに、初めて会った時に「破壊」をしてみせた。

 恐ろしくて使ったことのないその魔法を、いとも簡単に使ってみせた。

 こんな事ができるのは化け物に違いない!

 初めて自分以外の化け物に会った。


 ケガレを恐れない。痛みを恐れない。毒を恐れない。

 彼女は誰よりも勇敢な化け物だった。


 ――血塗れの靴を手に無邪気に笑う彼女

 沼の中に血を数滴垂らして、そのまま数日待機して、敵が入ったら硬化させる。

 そんな使い方、一体誰が思いつく!

 靴と皮膚を捨てて逃げ出す敵達を見て彼女は無邪気に笑った。

『殿下ー! 見てください! 大漁大漁!』

 彼女は、可愛い化け物だった。


 僕の中の化け物は、本物の化け物を前に、どんどん小さくなった。

 でもその化け物は、まだ生きていた。

 一度でも「破壊」を使えば後戻りができなくなりそうで、怖かった。

 だから僕は「破壊」を使わなかった。


「化け物」

 彼女がそう影で呼ばれるたびに安心した。

 僕の中の「これ」は化け物なんかじゃない。

 だって彼女よりずっと――そう思えた。最低だ。

 彼女が「化け物」と呼ばれることで、僕は壊れずにすんだ。

 僕はずっと、見ないふりをしていた。


 ――アリアナの死ぬ間際の顔。

 足元がぐにゃりと歪んだ。

「よお、久しぶりだな」「今度こそくっちまおう、くっちまおう」

 再び声が聞こえた。

「お前が大切なものを大事にしない、そんな世界は必要無いだろ」

「そうだね、僕もそう思うよ」


 くいつくせ、くいつくせ。

 自分の中の化け物が咆哮した。

 僕は初めて「破壊」した。

 目に入るもの、全てを「破壊」できる能力だった。

 パヴェルの命乞い、アレクシスの断末魔、首の落ちた皇后。


 代わりに失った。

 モーリスの手足、内乱で死んだ騎士たち、そして、”人”として生きるということ。


 ――アリアナの”躾”の証拠

 これ以上、死んだ彼女を汚させない。

 決意とともに全て「破壊」した。

 たとえそれが、彼女の血筋を残さない決断になったとしても。


『生きてる僕達に比べたら、死んだ人が一番可哀想だ!』

 でも、できれば、君と一緒に死にたかった。


 アリアナが遺したものは、ほんのわずかだった。

 いくつかの手紙と、騎士団の部屋に残された私物――そして、君が命をかけて守り抜いた、この国だけ。

 皇位を継いだときには手遅れだった。国が滅びる寸前だった。

 雪原の下に埋もれ、滅びを迎える――そんな未来が目前に迫っていた。

 だから抗うと決めた。

 この国がたとえ、どれだけ残酷でも、醜くて汚れていても、何を犠牲にしてでも守り抜くと。

 君が救ったこの国を、僕は贖罪として背負っていく。

 君の手紙が遺品なら、この国もまた君の遺品だ。

 そう思わなければ、正気ではいられないくらい、アリアナが残したものは数少なかった。


 人間は二度死ぬ。

 肉体の死と、忘却の死。

 だから「アリアナ」を残すことで、君は死んでいないと思い続けた。

 色に、建物に、地名に、詩に、刻み続けた。

「墓守皇帝」と笑われても。


 僕は地獄に落ちるだろう。

 でも、一度だけ地獄から抜け出してアリアナに会いに行く。

 君の名前が残ってるって話をして「すごいですね」と言ってもらおう。

 いつかのその日のために生き続ける。


 皇帝になって「破壊」するものもなくなった。

 だから使わない、ただそれだけだった。


 ――夏の国の偽製品事件。

 首謀者、その保護者。

「証拠はどこにあるのですか」

「あの娘が誘ったんじゃないですかぁ?発育も良かったし」

「うちの姪も、似たような年頃でしてね。どうぞ、”お試し”を」

「――“騎士のフリした奴隷上がりの娘”よりは、ずっとマシでしょう?」


 くいつくせ、くいつくせ。

 心の中の化け物が、語りかけてきた。


 ――あの日、ワゴンを破壊したアリアナ

『ここは、私が生まれた国。だから、できればここにいたい』

 彼女が「ここにいたい」と言った場所を守りたいだけだった。

 でももう、守る理由も、必要も、わからない。


 ――それでも、背中にかかる小さな重みが、まだ王であれと訴えている。


***

短いので2話更新予定です



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