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第34話【現在】社会科見学、あるいは十三歳の誓い

 エミリアの展示に精神力をがっつりと削られながら、次の展示へと進む。

 ここでは主にベンジャミンの日記が展示されていた。

『この展示は、ベンジャミン様よりこの記録が国民への警鐘となるようにと寄贈いただいたものです。』と記載されている。

 彼の性格を表しているような几帳面な文字の羅列は大変読みやすかった。


『今日もまたブレメア家が金の無心に来た。

 陛下は「個人資産から出しているから問題ないだろう」と言っているが、このままでは国の予算に手を付けるのも時間の問題だ。

 今回の無心は「アリアナの墓掃除の為」だ。墓の場所すらこちらに教えないくせに。

 だいたい、墓掃除のために何故こんなにも金が必要なのだ。』

『今日の金の無心の理由:アリアナが残した遺物の捜索。

 陛下にはどれだけ言っても通じない。

 アリアナが残したものが見つかる可能性が1%でもあるならと惜しみなく私財を投じている。

 30年前に放棄された廃墟から、18歳だったアリアナの私物が出てくる可能性は何%あるだろう。

 剣を今日も研ぎに出した。あの家族に突き立てることを夢見て。』

『陛下があれほど大事に思っている彼女を、

「一番最初に“躾けた”のは母親だ」と、兄が夜会で自慢していたという話を聞いた。

 金に困ると、“武勇伝”を聞かせる秘密の夜会を開くらしい。

 胸糞悪い「躾」の写真が存在するという噂が私の耳にも入ってきた。

 それさえ手に入れば、陛下も考えを変えるだろうか。

 あいつらは人間じゃない。なぜアリアナがあの家族から生まれたのか、不思議でならない。』

『今回の金の無心の理由:「アリアナが身につけていた髪飾りのレプリカ製作」だそうだ。

 私は、アリアナが髪飾りを付けていたところを見たことがない。

 だが、陛下は許可を出した。

 この国は、アリアナによって救われ、アリアナによって滅びるだろう。』

(ぐしゃぐしゃになった請求書が添付されている)

『陛下は、今日も払った。

 私は、今日も記録した。

 この記録がブレメア家を粛清のきっかけとなる。そんな日が一日でも早く来ることを、私は祈っている。』

(※本記述は原本がひどく破損していたため、復元された内容を含みます)


 後半になればなるほど、筆が荒く、シンプルな内容になっていくベンジャミンの手記はあまりにも痛々しい。

 手記に添付されていた請求書をまとめて計算してみたら……帝都の一等地に大きめの屋敷が二棟建つくらいの金額を、陛下はブレメア家に渡していた。

 しかもかの家は、その殆どを詐欺で奪われたと。


 どうやら私の死後、ブレメア家は我が世の春を得たと言わんばかりにはっちゃけたらしい。

 陛下に金をゆすり、たかり、その裏では反皇帝派に情報を売っていた。

 これは一族郎党皆殺しにされても文句言えない。

 粛清も相当後の方になってから行われたらしい。

 ベンジャミンの日記に書かれていた悪趣味な”躾”の証拠が見つかり、そこで「この家は不要である」と判断され、粛清されるに至った、ということだった。

 最後に一言、「ブレメア家で残っていた写真に、アリアナが笑顔で映っていたものは一枚もなかった」と締めくくられていた。

 それは、どんな証拠をここに残すよりも如実に語っていた。

 英雄の生家を断絶するに値する、確かな理由がそこにあったのだ。

 絶対に伝えなければいけないというベンジャミンの意思が伝わってくる手記だった。

 そこにはアリアナの血筋を残したいと限界まで我慢した陛下の気持ちと、陛下の気持ちを尊重したいが、それを許せば国が終わるから認められないベンジャミンの苦悩が感じ取れた。


 この手記はアリアナの生家の恥を晒すような内容だし、公開するのも悩んだだろう。

 だけど、これを公開しなければ陛下は「重用していた部下を見殺しにし、あまつさえその生家も皆殺しにした極悪非道な皇帝」になってしまう。

 どれだけの人に届くかは別として、公開するしかなかったのだ。


 ……あの家の事は殆ど思い出せない。私にとっての前世は、騎士団で過ごした日々だから。

 痛みと苦しみ、屈辱しかないあの家の思い出は、今の私にとって、どれも曖昧でひどく遠い。

 まあ、そんなわけで陛下の逆鱗に触れたブレメア家は取り潰しになり、領地は皇帝陛下の管理に、アリアナの墓は帝城内部に移管されたらしい。


 以前にモーリスと保健室で話した時、「陛下のド地雷を踏む可能性がある」って言ってた理由が分かった気がする。

 これだけ、あの人達からアリアナ関連で搾取されていたのだ。

 そこに急に「こんにちは! アリアナです! 陛下に会いに来ました!」って見ず知らずの女が来たら、またアリアナを口実にしたゆすりかって思ってしまう。


 この場所の展示を見終わった今、エミリアの手紙を見た時以上に頭を抱えたくなった。

 謝りたい。今すぐ。ごめんなさい、陛下。

 あの人達は本当におかしい人達なんです。

 そうでなかったら私は十二歳の真冬に、カーテンを裂いて窓から脱出する必要もなかったんです。


 謝罪をしたい相手が、私の顔を覗き込んだ。

「顔が青いけど大丈夫?」


 声色は心配しているのに、顔が満面の笑みだった。

『え?謝るの?謝っちゃう?謝るってことはアリアナ確定だよね??』って顔してる。


「……将来の決意を固めていたところです」

 だから私は、謝罪の言葉のかわりに、そう吐き出した。


 そうだ、大きくなったらお父様のお仕事の一部――交易商を継ごう。

 海外製品の輸入はとても儲かりそうだ。

 この大陸にある他三国の製品だけでなく、海の外の製品も輸入して、国を豊かにしよう。

 そして稼いだお金を国に寄付しよう。かつての家族が盗んだ分まで。

 それが陛下に対してできる恩返しだ。


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