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第12話【現在】失敗、あるいは再会

『貴族学校へ入学する』と決意を決めた私は、――入学初日から保健室に居た。

 大変不本意な気持ちである。


 ことは数分前に遡る。

 両脇を兄二人に囲まれて貴族学校の門をくぐった私はワクワクしていた。

 前世では家庭の事情で貴族学校に入学することは無かったし、生まれ変わってから初めて殿下に会えるチャンスだったので。


「僕達は教室に行くけど、新入生はこのままホールに直行するようにだって」

「ホールはこのまま真っ直ぐ行けばつくから、アナスタシアでも迷わないよ」

「心配しなくても大丈夫です」


 そう言って兄二人に別れを告げた数秒後、私の顔面にはボールがめり込んでいた。


(1秒前には気づいていたって!!! 身体が動かなかっただけで!!)


 どうやら在校生がボール遊びをしていて、暴発した球が私にちょうどぶつかったらしい。

 顔は痛いし、鼻血は出るしで最悪だ。


 ウィルお兄様は私にボールをぶつけた悪ガキにお仕置きをしに、リアムお兄様は校医を呼びに行ってくれたらしい。


 ……入学式、黒髪姿の殿下を見たかった。ほんとーに、見たかった。

 悔しくて仕方ない。おもに自分の運動神経の悪さが憎い。


 私の入学式、終わった。

 開始前に。

 別にね、今後学園生活を送っていれば殿下を見かけることはあるとは思う。

 だけど、男の人の演説姿ってやっぱり特別だから、どうしてもみたかった。

 新入生たちに「君たちの活躍を期待する」とか言ってたりしたら……その一言だけで学年首席取れるくらい頑張れるし舞いあがれる。舞い上がりたかったー!!

 はあ、と重い溜息を吐き出す。思った以上に落ち込んだ。


 午前中は入学式、午後は学科ごとのクラス分けに必要となる試験がある。

 そこで首席を取ったら殿下の記憶に残れるだろうか。

 いや、殿下に気づかれることはまだ避けたほうが良い。

 殿下がアリアナをどう思っていたか、結局まだ分かっていないのだ。

 それに、試験は体力、魔法、学力の三つが実施されるけれど、私の場合、学力以外はほぼ最低ランク。つまり、首席を取れる見込みはほぼ無い。

 学力に関しては前世の知識があるだけだから、チートみたいなもんだ。自分の実力ではないから誇れない。


 ぼたぼたと鼻血が止まらない。血液操作の発動を試してみるが、だめだ。

 相変わらず身体の中で魔力がぷすぷすとくすぶっているような感じで、発火される気配が一切ない。

 夢の中では自由自在に使えてたからもしかしたら……と思ったけれど、そんなに甘くは無いみたい。

 試験しないでも分かる、これ、魔法のクラスは一番下だな。


 そんな無駄な抵抗を試していると、扉が開く音がした。

 乱暴な開け方にどこか懐かしさを感じる。

 瞬間、私は息をハッと飲んだ。


「アンタ?入学初日に怪我したのって。不運だったわね」


 くすんだ金髪。圧のある美人顔に似合わないガタイの良さと声の低さ。

 違うことと言えばいまは騎士服を着ていない。シャツの上に白衣を着ている。


 時間が六年経っても、モーリスは“モーリス”だった。


(か、かわってない……!!相変わらず綺麗……!!)


 軽く引いたアイシャドウも、口紅も――。

 モーリス!と呼びたかった。抱きつきたかった。口紅の色変えた?相変わらず綺麗だね、って言いたかった。

 だけど必死に我慢した。

 いまの私はアナスタシアであって、アリアナではないから。


 机の上に大量のお菓子がないのが、ここに殿下とベンジャミンが居ないのが不思議なくらいだった。


 騎士団をやめて校医をやってるんだ。それとも殿下の意向なのかな。


 モーリスはテキパキと手当の準備をする。

 どれだけの怪我か分からなかったから、救急キットを持ってきてくれていたみたいだ。

 冷たいタオルが顔に当てられる。ひんやりとした感覚が、皮膚の表面から染み渡ってくる。

 血が固まりかけている部分を拭いてくれる手つきは、とても優しい。


 骨が折れてないかとか、鼻血以外の怪我がないかを真剣に確認してくれていた。

 すみれ色の瞳でじっくりと見られるのは、モーリスに鑑定された時のことを思い出してなんだか落ち着かない。


「ありがと、ございます」

 鼻が塞がってて喋り辛い。ふご、と変な声が出てしまって恥ずかしい。


 タオルで拭う手が、ほんのわずかに震えた。

 見上げてみれば、すみれ色の瞳が驚愕に見開かれている。


「……アリアナ?」


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