第42話「拳、乱世を切り裂く」
戦場に轟く一撃――武田信玄の「虎王撃」。
白光に包まれ、空気が震える。兵たちは思わず耳を塞ぎ、視界を閉ざした。
だが、その光の中心で竜也は立っていた。
血塗れの顔に、まだ笑みを浮かべて。
「……効いたぜ、虎の拳……でもなァ」
竜也は拳を握り、全身の筋肉を膨れ上がらせる。
「俺の拳はまだ死んじゃいねぇんだよッ!」
吼えるように踏み込む。
信玄の巨拳が再び振り下ろされる。大地を裂く重戦車の突進のような拳。
「ドゴォォォォンッ!!」
竜也は真正面から受けた。
だが今回は違う。拳を合わせ、衝撃を真正面で弾き返す。
「虎の咆哮も……俺の拳で黙らせるッ!」
激突の余波で戦場の兵たちが吹き飛ぶ。
両者の拳が何度も交錯し、爆音が連続する。
「バギィィィッ!」
「ドガァァァンッ!」
殴る、殴られる。拳が骨を打ち、肉を裂き、鉄の甲冑すら軋ませる。
信玄の拳はまさしく山岳。受け止めた瞬間、骨ごと押し潰されるような重さ。
竜也の拳は逆に疾風迅雷、鋭く突き抜け、巨体を抉る。
「ぐっ……!」
竜也は一撃をまともに受け、口から血を吐く。
それでも立つ。膝を折らず、拳を構える。
「俺は……ただタイマンが好きで拳を振ってきた。
だが今は違ぇ! 仲間を、民を守るために、この拳はあるんだッ!」
竜也の叫びに、背後から仲間たちの声が飛ぶ。
「竜也殿ォォ!」
「親分、負けんなァァ!」
その声に信玄の目がわずかに揺れた。
「……守る拳、か。なるほど、貴様の拳はただの暴ではないというわけか」
巨体を震わせ、さらに気を高める。
「だが虎は退かぬ! 竜也、貴様をも呑み込むまでよッ!」
両雄の拳が再び交錯する。
拳と拳がぶつかり合う度に、戦場の大地が悲鳴を上げる。
「ドゴォォン! ドガァァァン! バギィィィッ!」
何十合、何百合と拳を交わすうちに、竜也の腕は血に染まり、骨が砕けかけていた。
だがその眼光は燃え続けている。
「信玄……てめぇの拳、重てぇよ……! でもなァ!」
竜也は大地を蹴り、最後の一歩を踏み込む。
「俺の“極・親分拳”で、乱世をぶっ壊すッ!!」
全身の力を拳に込め、竜也は渾身の正拳を突き出した。
信玄もまた、最後の虎王撃を振り下ろす。
「うおおおおおおおッ!!」
「虎王ォォ撃ィィィィ!!!」
拳と拳が激突する。
大地が爆ぜ、天空が震え、轟音が戦場を飲み込む。
次の瞬間――武田信玄の甲冑が粉砕した。
竜也の「極・親分拳」が巨体を打ち抜き、虎を空へと吹き飛ばす。
「ぐはっ……!」
信玄は宙を舞い、地響きを立てて大地に沈んだ。
兵たちは息を呑む。
甲斐の虎が……倒れた。
信玄は血に濡れた口元で笑みを浮かべる。
「……なるほど……仲間を……守る拳、か。乱世を終わらせる拳……見事……」
その言葉を最後に、瞳が閉じられた。
◆
「……勝った……のか……」
竜也は拳を握ったまま、荒い息をつき、戦場を見渡す。
武田軍は総崩れになっていた。
将が倒れた以上、兵たちの心は折れたのだ。
竜也は血に塗れた拳を高く掲げる。
「聞けェェッ! 乱世を拳で終わらせるのは、この竜也組だァァッ!!」
仲間たちが拳を掲げ、声を張り上げる。
「押忍ーーッ!!」
その声が戦場に響き渡った。
竜也の拳が、乱世を切り裂いたのだ。




