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戦国タイマン録  作者: やしゅまる


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第36話「武田の四天王」

甲斐・躑躅ヶ崎館。

 戦勝の余韻に浸る織田方とは対照的に、武田信玄の本陣は嵐を孕んだ静けさに包まれていた。床几に腰を掛けた信玄は、扇で口元を隠しながら、四天王と呼ばれる重臣たちを見渡す。


 山県昌景――赤備えを率いる猛将。

 馬場信春――「不死身」と呼ばれる老練の大将。

 高坂昌信――冷徹に戦場を読む知将。

 内藤昌豊――槍働きで知られる剛勇の士。


 四人は信玄の左右に並び、次なる戦の行方を占うように黙していた。


 「……織田勢に、“拳一つで戦場を荒らす男”が現れたそうにございます」

 沈黙を破ったのは昌信だった。冷静な声でありながら、どこか嘲りを含んでいる。

 「槍をへし折り、甲冑ごと叩き伏せるなど、荒唐無稽にございましょう」


 「はっ、だが敵が恐れておるのも事実よ」内藤が笑う。

 「名を竜也とか。織田の信長が直々に連れて歩く拳の化け物だと」


 信玄は黙って聞いていたが、やがて扇を閉じた。

 「面白い。拳で戦を制す者など、乱世に一人はいてもよい。ならば我らが試してやろうではないか。竜也とやら、我が軍馬に踏み潰されず耐えられるか……見物よ」


 四天王は一斉に頭を垂れた。猛虎の牙が、織田に向けられた瞬間だった。



 一方、美濃の竜也組。

 「……武田四天王、か」竜也は焚火の前で腕を組んだ。

 「ただでさえ騎馬が化け物じみてんのに、怪物みてぇな将まで揃ってやがる」


 隣で拳を握る新次郎が吠える。

 「だがよ、竜也殿! 俺らはもう槍も刀も砕いてきたんだ。馬だろうが四天王だろうが、拳でぶち破るまでよ!」


 大助も頷き、ぶ厚い掌を火にかざす。

 「……竜也。俺たちはもう引けねぇ。浅井長政の拳を越えたお前がいる。なら次は武田だ。俺たち三人で乱世をぶっ壊すんだ」


 竜也は一瞬黙り込み、やがて笑った。

 「……そうだな。義を貫いた長政の拳を抱えて進む。次は信玄だ……拳と拳で、乱世を決めようじゃねぇか!」


 焚火の火の粉が舞い、三人の拳が重なった。



 翌日、甲斐からの密偵が織田陣に入る。

 「武田は動く。信玄自らが出陣し、四天王も揃っていると……」


 報告を受け、竜也は拳を打ち鳴らした。

 「上等だ! 信玄だろうが四天王だろうが、全部まとめて拳で迎え撃つ!」


 その声に、新次郎と大助が力強く応じる。

 「おう!」

 「やってやるぜ!」


 戦の火蓋は切って落とされようとしていた。



 その夜。

 甲斐の陣営では、赤備えの山県昌景が馬に跨り、甲冑の軋む音を響かせていた。

 「信玄公、まずはこの昌景が奴の拳を試して参りましょう」


 信玄は目を細め、重々しく頷く。

 「良かろう。赤備えの突撃が止められるならば、乱世は竜也の拳のものとなろう。だが止められぬなら……風林火山の前に散るが定めよ」


 夜空に吹く甲斐の風は、まるで獣の唸り声のようだった。



 ――乱世の猛虎と、義を抱いた拳。

 その激突は、もう避けられぬ運命となっていた。


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