表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国タイマン録  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/47

第33話「義兄弟の拳」

姉川の河原は、静まり返っていた。

 鬨の声も槍のきしみも消え失せ、ただ二人の男を中心に時が止まっているかのようだった。


 竜也と長政。

 義兄弟と呼び合った男たちが、今や敵として拳を構えていた。


 「……長政。てめぇ、本当に刀を捨てやがったな」

 竜也は低く呟く。


 長政は足元に置かれた太刀へ視線を落とし、静かに答える。

 「俺は剣でお前を斬りたくはない。竜也殿――あんたの拳にこそ、俺のすべてをぶつけたいのだ」


 竜也の胸が熱くなる。裏切られた怒りと、義を通す長政への敬意がせめぎ合い、感情が渦を巻いた。

 「ったくよ……最後まで筋の通った野郎だぜ!」


 ――次の瞬間、二人の拳が同時に弾けた。



 「ぐっ……!」

 竜也の顎に長政の拳が突き刺さり、視界が一瞬揺らぐ。だが、すかさず竜也の右が長政の頬を打ち抜いた。


 ドゴォッ!

 肉と骨の鈍い音が響き、血飛沫が舞う。


 「ひぃ……人間の戦いじゃねぇ……!」

 兵士たちは震え、互いに目を見合わせた。敵も味方も、拳と拳の激突から目を逸らすことができない。


 竜也は息を荒げ、笑みを浮かべた。

 「やるじゃねぇか、長政! てめぇの拳、重ぇぞ!」


 長政は唇を裂かれながらも、静かに応じた。

 「俺は……義を捨てぬために戦う。浅井の名を守るために、この拳を振るう!」



 何度も拳が交錯し、血が流れ、二人の体はボロボロになっていった。

 竜也の脇腹に長政の拳が叩き込まれ、肺から息が漏れる。

 「ぐはっ……!」

 膝が折れかけるが、竜也は踏ん張った。


 「裏切りやがって……! だが義を通すてめぇを、俺は嫌いになれねぇんだよォッ!」

 叫びながら渾身の左を叩き込む。


 長政の顔が歪み、血が飛び散る。だが彼もまた拳を返す。

 「竜也殿……! 俺も……あんたを裏切りたくはなかったッ!」


 二人の拳は互いの頬を同時に撃ち抜き、倒れかけては再び立ち上がる。

 その姿は、もはや戦国の武将ではなく、ただ拳で語り合う男たちの姿だった。



 やがて、竜也の瞳が炎のように燃え上がる。

 「長政――これで終いだァッ!」


 大地を踏み砕くほどの踏み込み。腰を捻り、全身の力を込めた渾身の拳が長政の胸を貫いた。


 ドガァッ!!

 轟音が戦場を揺らし、長政の体が宙に浮く。


 「ぐっ……は……!」

 長政は血を吐き、地に叩きつけられた。砂と血にまみれながらも、なお笑みを浮かべる。


 「やはり……竜也殿は……俺の義兄弟だ……」


 その言葉を最後に、長政は兵たちに抱えられ、退いていった。



 竜也は荒い息をつき、拳を見下ろした。血と泥にまみれ、震える手。

 「……バカヤロウ。なんでこんな時代に……お前と出会っちまったんだよ……!」


 目頭が熱くなる。だが涙を見せるわけにはいかない。

 背後で竜也組の新次郎や大助が駆け寄る。


 「竜也殿!」

 「大丈夫ですか!」


 竜也は振り返り、乱れた息のまま豪快に笑った。

 「へっ……俺の拳に倒れたくらいで、長政が死ぬかよ。あいつはまだ立ち上がる。絶対にな……!」


 その言葉を噛みしめるように吐き、竜也は空を仰いだ。

 蒼天の下、義兄弟の拳が刻んだ絆は、決して消えることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ