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戦国タイマン録  作者: やしゅまる


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第32話「裏切りの決断」

永禄十三年――。

 夏の空はどこまでも蒼く澄み渡り、だが地を覆うのは戦火の煙だった。


 織田と浅井の同盟は、もはや形だけのものとなっていた。

 信長が朝倉義景を討たんと進軍すると、長政はついに決断する。

 「……浅井は、浅井の義を守る。父祖の縁を裏切ることはできぬ」

 その声は震えてはいなかったが、胸の奥に重い痛みを宿していた。



 姉川の河原。

 鬨の声が轟き、地を震わすほどの軍勢が対峙する。

 織田の旗、浅井の旗、そして朝倉の旗が入り乱れ、乱世の縮図のごとき光景が広がっていた。


 「……な、なんで浅井が敵に立ってやがる……」

 竜也は目を見開き、信じられぬ思いで叫んだ。

 その先頭、堂々と馬を進める長政の姿――義兄弟と誓い合った男が、確かに敵の陣に立っていた。


 「てめぇ……長政ッ!」


 竜也の怒号が戦場を貫いた。兵たちが一瞬たじろぎ、ざわめきが広がる。


 「竜也殿……!」

 長政は馬を降り、静かに前へと歩み出る。その手には太刀があったが、彼は鞘ごと地に置いた。

 「義のためだ。織田に背を向けても、我が家の縁を守らねばならぬ。竜也殿、義兄弟だからこそ……俺はあんたと拳で決着をつける!」


 兵たちの間に道が空く。敵味方を超えて、二人の拳に注がれる視線。

 「……てめぇ……本気でやる気かよ」

 竜也の拳が震える。怒りか、哀しみか、自分でも分からなかった。



 「竜也殿!」

 背後から竜也組の新次郎が叫ぶ。

 「裏切り者なんざ、俺たちでやってやります! 竜也殿は行くな!」

 だが竜也は振り返らず、前へと進んだ。

 「……義兄弟のケンカは、俺がケリつける」


 大助もまた拳を握りしめたが、その背中にかける言葉を失っていた。



 長政と竜也、二人は戦場中央に立つ。

 周囲の兵たちは槍を下げ、呼吸すら止めて見守っていた。


 「長政ォ……! 俺はてめぇを信じてたんだぞ!」

 「分かっている! 俺とて裏切りたくはなかった! だが浅井の義を捨てるくらいなら……友を裏切るしかなかった!」


 竜也の胸が抉られるように痛んだ。

 ――裏切りやがった。だが、それが義だと言うなら……。


 「……分かったよ。だったら拳で確かめるしかねぇな!」


 二人の拳が同時に構えられる。

 戦場は静まり返り、ただ蝉の声と川のせせらぎが響いた。



 「竜也組、構えろォ!」

 信長の声が飛ぶ。

 「全軍、この勝負を見届けよ!」


 敵も味方も、誰一人動かない。

 竜也と長政、義兄弟の拳が交わる瞬間を待っていた。


 「来い、長政ィッ!」

 「応えよう、竜也殿ッ!」


 二つの拳が、乱世の空を裂いた――。


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