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戦国タイマン録  作者: やしゅまる


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第31話「暗雲の兆し」

時は流れ、竜也が長政と拳を交わしてから幾年。戦国の荒波はさらに激しく、織田信長は足利義昭を奉じて上洛を開始した。

 「天下布武」の旗のもと、都は一変した。旧勢力を追い散らし、新たな秩序を築こうとする信長。その背後には、相も変わらず拳を振り回す竜也の姿があった。



 京の町――。

 竜也は豪快な拳を振るい、三好三人衆の兵をまとめて吹き飛ばす。

 「どけぇッ! 邪魔すんならまとめて殴り飛ばすぞ!」

 木戸を蹴破り、乱戦の中を突っ込む竜也。周囲には倒れた兵が積み重なり、血と埃が舞う。


 「ひぃっ、あいつ一人で百人相手に……!」

 「馬鹿な、あれが織田の“拳聖”か……!」


 逃げ惑う敵兵を追うこともなく、竜也は豪快に笑った。

 「ハッ、都の奴らは口ばっかだな! もっと骨のある奴連れてこいよ!」


 その姿を、松永久秀が遠巻きに眺めていた。冷徹な眼差しで呟く。

 「織田には怪物を飼っておるわ……あれは剣や槍では止まらぬ」



 一方その頃、北近江・小谷城。

 浅井長政は書状を前に眉を寄せていた。信長が朝倉義景との盟約を踏みにじり、敵対の姿勢を見せているのだ。


 「……義景公は我が父の代からの恩人。浅井家は代々、朝倉との縁を守ってきた」

 長政の声は静かだが、揺るぎない葛藤がにじむ。


 側近の家臣が進み出る。

 「されど今は織田の力が天下に広がっております。ここで信長殿を裏切れば、浅井は滅びますぞ!」

 「……分かっている。だが義を捨てれば、浅井の名は空虚となる」


 長政は天を仰ぎ、深く息を吐いた。義と現実、その板挟みに苦悩していた。



 後日。竜也が京から小谷に戻ると、長政の表情に翳りがあることに気づいた。

 「よぉ、長政! なんか元気ねぇな? 腹減ってんのか? うまい飯でも食おうぜ!」

 竜也は笑いながら肩を叩く。


 だが長政は首を振り、真剣な眼差しを向けた。

 「竜也殿……あなたに一つ頼みがある」

 「お? なんだ、遠慮すんな」


 長政は拳を握りしめ、低く告げた。

 「もしこの先、私が義を違えることがあれば――その時は、あなたの拳で試してほしい」


 竜也はきょとんと目を丸くした。

 「はぁ? なんだよそれ。お前が義を裏切るわけねぇだろ!」

 「……そう願いたい。だが、世は乱世だ。義を貫くか、現を取るか、いつか選ばねばならぬ」


 竜也はしばし黙り込んだ後、にかっと笑った。

 「ま、なんでもいいけどよ! もしお前が変な道に行っちまうなら、俺が拳でぶん殴って正気に戻してやる! それで文句ねぇだろ!」


 長政の目に、一瞬光が宿った。

 「……ああ。それでいい。竜也殿、あなたにしか頼めぬことだ」


 二人の拳が再びぶつかり合った。だがその握力の奥に、互いに言葉にできぬ予感が渦巻いていた。



 その夜、岐阜城の天守にて。

 信長は遠方の報告を受け取りながら、静かに目を細めた。

 「長政……義に殉ずるか、織田に従うか。いずれにせよ、竜也を巻き込むことになる。面白い」


 炎に照らされた信長の瞳は、冷ややかな光を宿していた。



 竜也はそんな思惑など露知らず、豪快に飯をかき込みながら笑っていた。

 「長政も難しい顔ばっかしてねぇで、拳で全部決めりゃいいのによ!」


 ――やがてその拳が、義兄弟を隔てる刃となることを、竜也はまだ知らなかった。

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