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戦国タイマン録  作者: やしゅまる


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第29話「縁と拳」

美濃一帯を制した織田信長は、岐阜城にて新たな旗を掲げた。

 「天下布武」――その四文字が、戦乱の世に新たな覇道を示す。


 竜也は天守の上からそれを見上げ、豪快に笑った。

 「布武だぁ? なんだかよく分かんねぇが、でっけぇケンカの布石ってことだろ!」

 信長は冷たい眼差しをしながらも口元をわずかに歪めた。

 「……理解の仕方は間違っておらぬ。拳法者よ。次は近江の浅井よ。奴との縁を結ぶ」


 こうして竜也は信長の供として北近江・小谷城へと足を運ぶことになった。



 小谷の本丸。迎えたのは若き当主・浅井長政であった。

 歳は二十そこそこ、だが立ち居振る舞いは堂々として揺らぎがない。白地に青の紋を染めた直垂姿に、澄んだ双眸。その眼は誠実さと義を重んじる気骨を映していた。


 「織田殿、遠路ようこそ。我ら浅井は代々、北近江を守り抜いてきました。今後は共に歩めることを願います」

 理知的な声。控える家臣たちも誇らしげに頷く。


 信長は微笑み、お市を長政に娶わせることを告げた。政略の同盟である。しかしその場で、竜也が大声を上げた。

 「おう、長政! 義兄弟になるんなら、まず拳で心を知るべきだろ!」


 広間の空気が凍った。浅井家臣たちが一斉に色を変え、信長でさえ目を細める。

 「竜也、貴様……!」

 「ハッ、いいじゃねぇか。殴り合って互いの芯を見りゃ、腹の底から信じ合えるだろ?」


 その無茶を、長政は笑って受けた。

 「面白い。竜也殿、あなたの噂は聞いております。ならば拳で義を確かめ合いましょう」



 城下の広場。家臣や兵たちが見守る中、竜也と長政は対峙した。

 「さすがに刀は抜かねぇよな?」

 「無論。あなたと殴り合うのなら、武士の矜持も拳一つで足りる」

 長政は堂々と拳を構える。その姿に竜也は豪快に笑った。

 「気に入ったぜ、長政! いくぞォッ!」


 竜也が地を蹴り、一気に間合いを詰める。雷鳴のような拳が唸りを上げ――長政は正面から迎え撃った。

 ドガァッ! 拳と拳がぶつかり合い、広場に衝撃が走る。


 「くっ……重い!」

 長政の口から呻きが漏れる。だがその瞳は曇らない。

 「これが……あなたの拳か! ならば我も全身全霊で応える!」


 二撃、三撃。竜也の剛腕を長政は真っ向から受け返す。拳と拳が火花を散らし、見物の兵たちが息を呑んだ。


 やがて竜也の拳が頬を掠め、長政の拳が竜也の腹を打つ。互いに血を流し、汗を飛ばしながらも、一歩も退かない。


 「……いいねぇ! てめぇ、ただの若造じゃねぇな!」

 「竜也殿、あなたもだ! 噂以上だ!」


 再び拳が激突し――二人は同時に膝を折った。

 砂塵の中で、互いに笑う。


 「ははっ……お前、義兄弟以上に信じられる奴かもしれねぇ」

 「竜也殿……私も同じ思いだ。これからも拳を交わせることを願う」



 拳での邂逅は、誰よりも固い絆を生んだ。

 竜也は長政の肩を組み、豪快に笑う。

 「お前はいい奴だ! 絶対に裏切んなよ?」

 「……ああ。義を違えることなど、あってはならぬ」


 その言葉を聞き、竜也は豪快に頷いた。

 信長は黙して二人を見つめる。瞳の奥には複雑な光が宿っていた。


 ――こうして、乱世に新たな「拳の縁」が結ばれたのである。


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