第27話「乱世の拳」
砂煙の中で、拳と剛刀が火花を散らしていた。
竜也の拳は血で赤黒く染まり、義龍の剛刀は軋みながらもなお煌めきを失わない。
「ぐおおおッ!」
義龍の巨体がさらに力を込める。押し潰されそうな重圧に、竜也の膝がきしむ。
「……ッ!」
全身が悲鳴を上げる。骨が折れそうだ。それでも、竜也は一歩も引かなかった。
その背後から、仲間たちの声が飛ぶ。
「竜也殿ォ! あんたの拳は俺たちの誇りだ!」
「負けるな! 俺たちの声を、力に変えてくれ!」
織田兵までもが拳を握りしめて叫ぶ。
「竜也殿ならやれる!」
「見せてくれ、あんたの拳を!」
――ああ、そうだ。
俺はずっとタイマンにこだわってきた。群れるのはダセェと思ってた。
けど、今の俺は一人じゃねぇ。仲間の声を背負って立ってんだ!
竜也の瞳に、かつてない光が宿った。
「タイマンは一人じゃねぇ! 仲間の声も背負ってんだよォッ!!」
雄叫びと共に、竜也は全身の力を拳へと込めた。
血と汗と闘志が一つに溶け、拳がまるで炎のように輝く。
「これで――終わりだァッ!!」
ドガァァァァンッ!!
轟音と共に拳が剛刀を直撃した。
瞬間、金属が悲鳴を上げるように軋み……バキィッと音を立て、義龍の大太刀が真ん中から砕け散った。
「な……にっ!?」
義龍の目が見開かれる。巨体が揺らぎ、膝が地に沈む。
竜也は血まみれの拳を掲げ、咆哮した。
「タイマンの拳をナメんなァッ!!」
その声に、戦場が震えた。織田兵も竜也組も一斉に歓声を上げる。
「うおおおおッ! 竜也殿ォォォ!!」
義龍は膝をつきながらも、獰猛な光を失わなかった。
「……見事だ、拳法者。だが次は必ずその拳を砕く。乱世はまだ終わらぬ」
そう言い残し、斎藤軍は撤退を開始した。
竜也は崩れ落ちそうになる体を必死に支えながら、空を仰ぐ。
「ハッ……やっぱり戦国は面白ぇ。デケェ奴とタイマン張れる舞台が、まだまだあるじゃねぇか」
仲間たちが駆け寄り、竜也を肩で支える。新次郎が涙声で叫んだ。
「竜也殿……アンタ、本当に化け物だ!」
「うるせぇ……俺はただのタイマンバカだ」
竜也はそう言って笑い、血に濡れた拳をもう一度天に突き上げた。
戦場の誰もが、その拳の輝きを忘れられなかった。
――異端の拳。乱世に風穴を開ける男。
竜也の伝説は、ここからさらに広がっていくのだった。




