第24話「国境の激突」
朝もやの立ちこめる美濃国境。川を挟んで睨み合う両軍は、互いに鬨の声を上げていた。
「出陣じゃああッ!」
織田軍の太鼓が打ち鳴らされ、軍勢が一斉に前進を始める。
先陣を任された竜也組は、黒地に白拳の旗を掲げて走り出した。泥を蹴り上げながら、全員の拳は固く握られている。
「行くぞォォッ!」
竜也の咆哮に仲間たちが続く。その姿は、まるで荒野を駆ける猛獣の群れのようだった。
◆
敵陣から一人、屈強な武将が名乗りを上げる。
「我こそは斎藤家家臣、稲葉良通! かかってこい!」
立ちはだかったのは鎧に身を包んだ大男。槍を構え、竜也組を待ち受ける。
「俺が行く!」
真っ先に飛び出したのは新次郎だった。木刀を捨て、拳を握りしめる。
「タイマンで証明すんだよ!」
稲葉の槍が唸りを上げ、新次郎の頬をかすめた。だが新次郎は恐れず踏み込み、腰を沈めて拳を突き上げる。
「おらぁッ!」
ドゴォッ! 鉄兜に拳がめり込み、稲葉が後方に吹っ飛ぶ。地に倒れ、しばらく立ち上がれなかった。
「やったぞ、新次郎!」
仲間たちが歓声を上げる。
◆
続いて立ちはだかったのは、二刀を携えた俊敏な武将。
「斎藤家の森可成だ! 誰でも来い!」
「俺がやる!」
次に名乗り出たのは剛力の大助。剣は持たず、拳だけで挑む。
二刀の連撃が大助を襲う。だが彼は構わず腕で受け止め、痛みに顔を歪めながらも吠えた。
「これが拳の重さだッ!」
渾身のフックが森の腹を打ち抜き、武将が膝から崩れ落ちた。
竜也組は次々に武将と一騎打ちを繰り広げ、拳で敵を退けていく。兵たちは驚愕し、竜也組の名を叫び始めた。
「な、何だあの連中は!」
「拳だけで武将を倒しおった!」
◆
その時、斎藤軍の本隊が川を渡り、雪崩れ込むように押し寄せてきた。数千の軍勢が鬨の声を上げ、槍と刀を突き出して迫る。
「竜也殿!」
新次郎が振り返る。仲間たちも疲弊し始めていた。
だが竜也は一歩前に出て、口の端を吊り上げた。
「ようやく来やがったか……大軍ごとまとめてブッ倒してやるよ」
敵兵が一斉に襲いかかる。だが竜也は怯まず、地面を蹴り砕いて突っ込んだ。
「うおおおおッ!」
拳が振るわれるたび、兵が吹き飛び、鎧ごとへし折られる。突進してきた槍兵の列をまとめて薙ぎ払い、馬上の武者を拳で叩き落とす。
ドゴォッ! バキィッ! 骨と鉄の砕ける音が戦場に響き渡る。
「こ、こいつ一人で軍を押し返してるぞ!」
「ば、化け物だ!」
斎藤兵が恐慌に陥り、後退を始めた。
◆
竜也は拳を血に染めながらも、まだ闘志を失わなかった。背後では仲間たちが必死に戦い、各々が武将を打ち破っている。
「竜也殿! 俺らもやれる! 拳で勝ち抜ける!」
新次郎の叫びが飛ぶ。
竜也は振り返り、仲間の姿を見て笑った。
「上等だ! これが竜也組の拳だ!」
その瞬間、織田軍の全体が勢いづいた。兵たちは竜也組の姿に奮い立ち、斎藤軍を押し返す。
戦場は、竜也の拳を中心に揺れ動いていた。
◆
夕暮れ、川辺は死体と血で赤く染まっていた。だが織田軍は押し勝ち、斎藤軍を後退させることに成功した。
戦場の真ん中に立つ竜也の姿は、誰の目にも焼きついていた。
「斎藤義龍……次はてめぇの番だ」
竜也は血まみれの拳を握り締め、夜空を睨みつけた。
乱世を拳で切り拓く戦いは、まだ始まったばかりだった。




