表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国タイマン録  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/47

第21話「勝者の帰還」

尾張へ戻る織田軍の行列は、戦の疲れを隠せぬ姿ながらも、胸を張っていた。

 桶狭間で大軍を打ち破ったという大戦果は、すでに国中を駆け巡っている。道の両脇には人々が押し寄せ、兵たちに歓声と餅や酒を差し出した。


 「見ろよ、竜也組だ!」

 誰かが叫ぶと、民衆の声が一気に大きくなる。

 「竜也組! 竜也組! 拳で戦をひっくり返した英雄だ!」

 手拭いを振り、子供たちは目を輝かせ、若い衆は「兄貴ィ!」と叫び、娘たちでさえ頬を赤らめて手を合わせる。


 竜也は面食らったように首を掻いた。

 「……なんだよ、いつの間にか“組”になっちまってんぞ」

 隣の新次郎が肩を揺らして笑う。

 「そりゃそうでしょう。あんたがいなきゃ義元討ちなんざ夢のまた夢でしたから」

 「はっ、俺はただ拳振るっただけだ。討ったのは信長だろ」

 そう言いつつも、竜也の胸にじわじわと熱が広がっていく。


 ――拳で、戦が変わった。

 それは誰もが否定できぬ事実だった。



 清洲城へ帰陣すると、広間には祝いの膳が並び、兵も家臣も口々に勝利を語った。だが、竜也は浮かれ騒ぐ輪から離れ、城壁の上に立って城下を見下ろしていた。


 夜空には星が瞬き、遠くで太鼓や笛の音が響く。民衆の喜びが国を揺らしていた。

 竜也は拳を握り締める。


 「……俺の拳が、あの大軍を退けた。喧嘩じゃねぇ。歴史を変える一撃だった」

 その実感が胸を突き動かす。これまで“タイマン”といえば自己満足だった。だが今は違う。拳ひとつで、仲間を守り、未来を切り拓ける。



 そこへ信長が姿を現した。膝下まである黒い羽織を揺らし、凛とした影を落とす。

 「竜也。人々の声を聞いたか」

 「……ああ。どうやら俺も“武将扱い”らしい」

 竜也は照れ隠しのように笑った。


 信長は静かに頷き、城下を見下ろす。

 「桶狭間は始まりにすぎぬ。この乱世は、これからさらに荒れる。だが――」

 信長は竜也の拳に視線を落とした。

 「その拳があれば、我が軍は何度でも道を切り拓ける。喧嘩小僧ではなく、戦国の力としてな」


 竜也は無言で拳を掲げ、夜空へ突き上げた。

 「上等だ。俺の拳で、もっとデケェ奴らとタイマン張ってやる」



 翌日、竜也組の面々は城下町の外れに集まった。

 勝利に酔うことなく、全員が「もっと強くなる」と誓い合ったのだ。

 新次郎が声を上げる。

 「竜也殿! 俺たちも拳を磨きたい。教えてくだせぇ!」


 竜也は腕を組み、ニヤリと笑った。

 「教えるっつっても、俺が知ってんのはケンカの殴り方と、ちょっとばかし格闘技の真似事くらいだぜ」

 「それでいい! あんたの拳で俺らはここまで来たんだ!」

 仲間たちの目は真剣そのものだった。


 竜也は腰を落とし、拳を握る。

 「じゃあ基本からだ。拳は突き出すんじゃねぇ、“腰と足”で打ち出すんだ」

 ドンッ! と地を鳴らし、重たい音が響く。

 「見たか。腕だけじゃねぇ。体ごとぶつけろ。それが本物の拳だ!」


 仲間たちも真似し、泥に拳を突き出す。

 「違う、もっと腰を落とせ! 足の指まで地面に喰いつかせろ!」

 竜也の怒号に、皆の拳が次第に鋭さを増していく。



 夕暮れ、汗と泥にまみれた竜也組が拳を突き合わせた。

 「竜也殿、あんたは“群れは嫌いだ”って言ってたな」

 新次郎が笑いながら言う。

 「けど、俺たちに背中を預けてくれてる。だから俺たちはついていけるんだ」


 竜也は少し照れくさそうに鼻を鳴らした。

 「群れは嫌いだ。けど……お前らは違う。拳を信じ合える仲間だからな」


 その言葉に仲間たちは胸を熱くし、泥だらけの拳を高く掲げた。

 「竜也組! 天下を拳で切り拓け!」


 夕陽に照らされた拳の群れは、まるで新たな乱世の狼煙のように赤く輝いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ