第18話「信長と義元」
嵐の戦場を切り裂き、竜也組は今川本陣目前まで突き進んだ。
豪雨に煙る視界の先、金銀の糸を織り込んだ絢爛たる大旗が揺れている。
その旗の下、座すは駿河の大大名――今川義元。
「ついに……見えたぞ!」
竜也は血に濡れた拳を握りしめ、叫んだ。
背後では仲間たちが息を切らしながらも、その背を追っている。
誰もが限界を超えていたが、竜也の背中だけが揺るぎない道標となっていた。
◆
義元本陣の守備は、今川の精鋭中の精鋭。
重装備の武将らが槍と太刀を手に、鉄壁の防御陣を築いていた。
「愚か者どもめ! 本陣に踏み込めると思うな!」
怒声と共に、刃が竜也組に迫る。
「上等だッ! まとめて相手してやらァ!」
竜也が飛び込む。
敵武将の太刀を前腕で受け止め、火花が散った瞬間――逆の拳で兜を砕いた。
「次ィッ!」
回し蹴りで二人目を吹き飛ばす。
仲間も拳と蹴りで応戦し、周囲に乱戦が広がった。
「竜也殿に続け!」「俺らが道を拓くんだ!」
だが数は圧倒的に敵が多い。
次第に竜也組は囲まれ、押し潰されそうになった。
「竜也! 横から来てる!」
仲間の声に振り返れば、数名の敵兵が信長へ突進していく。
竜也は咆哮した。
「誰も邪魔すんじゃねぇッ!」
拳を振り抜く。
衝撃で雨水が弾け、敵兵の列がまとめて吹き飛んだ。
「信長ァッ! ここまで連れてきたぞ!」
振り返り、主君へ道を示す。
◆
信長は馬上で微笑んだ。
「竜也、見事だ。ならば――この一太刀で天下を拓く!」
彼は馬を駆り、義元の御座へと突入した。
そこにいた義元は、煌びやかな甲冑を纏い、扇を手に悠然と構えていた。
「小勢で我が本陣に至るとは……だが所詮は無謀よ。首を差し出すがいい」
「ほざけ、太平の化粧大名!」
信長は馬から飛び降り、刀を抜いた。
稲光が刃を照らし、雷鳴が二人を包む。
――信長と義元、歴史的な一騎打ちが始まった。
◆
竜也は仲間たちと周囲の敵を押さえ込む。
「こっから先はタイマンだ! 信長と義元の勝負に口出しすんじゃねぇ!」
敵兵が突っ込んでくるたびに、竜也の拳が雷鳴のように轟き、叩き伏せる。
仲間たちも必死に応戦した。
「竜也殿を守れ!」「信長様の勝負を邪魔させるな!」
拳と刃が雨中で火花を散らし、地面は泥と血で染まっていく。
◆
一方、信長と義元の刀が火花を散らした。
義元の太刀筋は重厚で、鎧の下から繰り出される力強さは大名の威厳を示していた。
「尾張の小僧が、この義元に挑むか!」
「小僧だと? 天下を握るのは俺だ!」
刃が何度も交差し、雨が二人の顔を打つ。
竜也は戦いながらも、その光景から目を逸らさなかった。
――これが、本物の天下を懸けたタイマンだ。
◆
ついに決着の時が訪れる。
義元の太刀が振り下ろされた瞬間、信長は身を沈め、刃を弾いた。
空いた懐に、鋭い一閃が走る。
「これで終わりだァッ!」
信長の渾身の斬撃が義元の鎧を裂き、鮮血が飛び散った。
「ば、馬鹿な……!」
義元は呻き、地に崩れ落ちた。
――今川義元、討ち死に。
◆
その瞬間、竜也は拳を振り抜いて最後の敵兵を倒し、叫んだ。
「やったぞォッ! 信長が勝ったァ!」
仲間たちが拳を突き上げ、雨を突き抜ける咆哮が戦場に響く。
敵兵の列は動揺し、やがて総崩れとなって逃げ散っていった。
信長は義元の亡骸を見下ろし、振り返った。
「竜也……お前の拳が、俺をここまで導いた。これで乱世は変わるぞ」
竜也は血と雨に濡れた拳を握り、応えた。
「おう……! これがタイマンの勝ち方だ!」
雨が上がり、空の向こうに光が差し始めていた。
――乱世の幕開けを告げる勝利だった。




