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戦国タイマン録  作者: やしゅまる


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第16話「嵐の中の奇襲」

 六月の空は、重く垂れ込めていた。

 竜也は甲冑を着込んだまま拳を握りしめ、進軍する織田軍の列に立っていた。

 前を行く信長の背中は、どこか獣めいた気配を纏っている。


 「……義元の首は、俺が取る」

 昨夜そう言い放った主君の言葉を、竜也は胸の奥で反芻する。

 ならば自分の役目は決まっている。――拳で道を切り拓く。それだけだ。


 進軍を続けるうち、空模様が急変した。

 稲光が尾張の大地を走り、やがて激しい雨が叩きつけてきた。

 兵たちは慌てて兜を被り直し、馬を抑える。湿った土の匂いと、雷鳴が轟く。


 竜也は顔を上げ、雨粒をそのまま浴びて笑った。

 「天が味方してるぜ! こんな土砂降りじゃ、奴らも目が利かねぇ!」


 信長は馬上から振り返り、鋭く頷いた。

 「この嵐の中でなら、義元の大軍もただの烏合の衆よ。行くぞ!」


 その声に合わせ、織田軍は一斉に鬨の声を上げた。



 山道を抜けると、前方に今川方の斥候が現れた。

 雨をしのごうと木陰に潜んでいた彼らは、不意に竜也組の姿を認め、慌てて槍を構える。


 「かかれっ!」

 号令と同時に、十数本の槍が一斉に突き出された。


 竜也は鼻を鳴らし、拳を構えた。

 「槍なんざ折っちまえ!」


 次の瞬間、彼は豪雨を蹴って飛び込み、右腕で槍を叩き折った。

 乾いた木が裂ける音が雷鳴と混ざる。

 竜也組の仲間たちも続き、拳や蹴りで斥候を次々と地に転がしていった。


 「ひ、ひとりで槍を……!」

 恐怖に駆られた敵兵が叫び、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。


 竜也は息を吐き、割れた槍の柄を投げ捨てた。

 「数で囲んでくるくせに、この程度かよ。――次、行くぞ!」



 進軍は続く。

 だが雨はさらに激しさを増し、前もよく見えない。

 ぬかるんだ道に馬が足を取られ、兵たちの列は乱れかけた。


 その中で、竜也だけが歩を緩めなかった。

 泥に足を取られようが、頭から滝のように雨を浴びようが、拳を振るうたびに敵兵を薙ぎ倒す。

 まるで嵐そのものが人の形を取ったかのようだった。


 「ぐはっ!」

 今川方の別働隊が襲いかかるが、竜也は片腕で二人まとめて突き飛ばし、

 「どけェッ!」と雷鳴のような声を轟かせる。


 仲間の若者たちも、その背中に導かれるように突き進んだ。

 「竜也殿に続け!」「拳で押し通せ!」


 敵の槍が次々に折れ、雨水に濡れた大地へ転がる。



 高台からその光景を見ていた信長は、口の端を吊り上げた。

 「……竜也。まるで嵐そのものだな」


 雨脚の向こうで暴れ回る不良の拳。

 その姿は、戦場の常識を超えた異形の力であり、同時に織田軍の士気を一気に高める炎だった。


 「面白ぇ……あの拳で義元本陣を突き崩す。そうすりゃ、乱世は俺のものよ!」


 信長の笑い声は、雷鳴と混ざり合い、戦場に轟き渡った。



 その夜、竜也組は濡れ鼠のまま野営地に戻った。

 誰もが疲労困憊だったが、目には確かな輝きがあった。


 竜也は焚き火の前で拳を握りしめた。

 「見ただろ、雨ん中でも俺らは折れねぇ。明日は本陣まで一直線だ。頭を潰しゃ、全部散る」


 仲間の一人が笑った。

 「竜也殿、あんた本当に嵐みてぇだ」


 竜也は照れくさそうに鼻を鳴らした。

 だが、誰もがその言葉に深く頷いていた。


 ――桶狭間の戦いは、いよいよ本番を迎える。


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