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戦国タイマン録  作者: やしゅまる


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第14話「信長と竜也」

清洲城――。

 戦勝の余韻がまだ城下に漂う中、竜也は柴田勝家に呼ばれ、奥の広間へと案内された。そこに待っていたのは織田信長本人である。


 「来たか、竜也」

 信長は膝を組み、鋭い眼光で竜也を見据えた。その背後には重臣たちが並び、場の空気は重く張り詰めていた。


 「……何の用だ。俺ぁタイマンで疲れてんだぞ」

 竜也はふてぶてしく頭を掻いた。家臣たちは一斉にざわめく。

 「無礼者!」「殿の御前でその態度……!」

 だが信長は手を上げ、静かに制した。


 「竜也。俺はお前に問いたい。お前は、何のために戦う?」

 その声音には怒気も嘲りもなく、ただ純粋な問いがあった。



 一瞬、竜也は言葉に詰まった。

 「……決まってんだろ。強ぇ奴と殴り合うためだ。タイマンこそ、俺の生き様だ」

 彼の答えに、家臣たちは呆れ顔を見せる。

 「子供じみた……」「乱世を遊び場と勘違いしておる」


 信長も口元を歪めた。だが、それは怒りではなく笑みだった。

 「ならば問う。仲間が死ぬとわかっていても、同じ答えを言えるか?」


 竜也の胸に、先日の光景が甦る。矢に射抜かれ、血を流して倒れた仲間の顔。墓標の前で握りしめた拳。

 言葉は喉で詰まり、竜也は苦々しく歯を噛んだ。


 「……強ぇ奴と殴り合う。それが一番だ。だが……」

 拳を握り直し、彼は吐き出すように続けた。

 「仲間を死なせるのは……もうゴメンだ。守りてぇ奴を守るために、俺は殴る。それがタイマンでも、戦でもな」



 沈黙が広間を支配した。家臣たちの目が変わる。

 「……守る、だと」

 「喧嘩屋がそんなことを……」


 信長は静かに立ち上がり、竜也に歩み寄った。

 「そうか。それでいい」

 信長は竜也の肩に手を置き、声を張った。

 「聞け! 竜也はただの乱暴者にあらず! 拳の裏に仲間を思う心を宿す者よ!」


 家臣団がざわめく中、信長は続けた。

 「俺は尾張を治め、この乱世を駆け抜ける。そのために必要なのは、理でも兵法でもない。人を動かす力だ。竜也、お前はそれを持っている」


 信長の目が鋭く光る。

 「ならば俺が命ずる。竜也――お前は俺の右腕となれ!」



 竜也は一瞬ぽかんとした。

 「はァ? 右腕? 俺はただの喧嘩屋だぞ」

 「違う。喧嘩屋だからこそだ」

 信長は笑った。

 「お前の拳は群れを壊すが、同時に新たな群れを生む。家臣たちよ、見たであろう。竜也に従う若者たちの姿を」


 重臣の一人が渋々口を開いた。

 「……確かに。竜也組の者どもは、命を賭して奴を支えておりました」

 別の武将も続ける。

 「乱暴者に見えて、戦場では妙に筋が通っている」


 次第に場の空気は竜也を受け入れるものへと変わっていった。



 竜也は鼻を鳴らした。

 「チッ……結局、群れってのはそういうもんかよ。けどな、俺はタイマン主義だ。それだけは譲らねぇ」

 信長は愉快そうに笑った。

 「よかろう。ならばタイマンで乱世を切り開け。俺は群れを動かす。お前は拳で道を拓け。それでこそ左右の手だ」


 竜也は肩を竦め、笑った。

 「……しょうがねぇな。じゃあ俺が道をブチ開けてやるよ」



 その夜、竜也組の仲間は大広間の片隅で、主の言葉を聞いていた。

 「竜也殿が……信長公の右腕に」

 「すげぇよ。タイマンがついに国盗りの道につながるなんてな」


 竜也は仲間に振り返り、拳を突き上げた。

 「聞いたな。これからもっとデケェ奴らと殴り合える。だが忘れんな。誰一人、仲間は死なせねぇ。俺の拳が守る」


 その言葉に仲間たちは胸を叩き、応えた。


 清洲の夜空に、笑い声と拳をぶつけ合う音が響いた。

 竜也の“タイマン”は、もはや喧嘩ではなく――戦国を変える力へと変わりつつあった。


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