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戦国タイマン録  作者: やしゅまる


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第13話「斎藤義龍との影」

美濃・稲葉山城――。

 薄暗い広間に座すのは、斎藤義龍であった。父・道三の血を継ぎ、武威をもって美濃を束ねる若き大将。だがその眼差しには、すでに猜疑と苛烈が宿っていた。


 「……尾張に妙な若造が現れたと聞く」

 義龍は静かに口を開く。

 「名は竜也。群れを退け、一人で将を討つと。笑止千万……そんな異端を許せば、我ら武士の道が乱れる」

 傍らの家臣たちが頷く。

 「殿、奴は兵をまとめる術を知らぬ喧嘩者。今のうちに潰すべきかと」

 義龍は嗤った。

 「うむ。ならば命ず――竜也狩りをせよ」



 数日後、尾張・美濃の国境の山道。

 竜也組は再び斥候の任を負い、谷間を進んでいた。

 「最近やけに出番多いっすね、俺ら」

 「まぁな。だが敵と出くわしゃ結局タイマンよ」

 竜也は軽口を叩きながらも、妙な胸騒ぎを覚えていた。


 次の瞬間――四方の藪が揺れ、無数の槍が突き出された。

 「出やがったな、伏兵!」

 「尾張の乱暴者を逃すな!」

 谷を埋めるように、義龍の兵が雪崩れ込む。


 竜也組は背を合わせて必死に応戦する。だが数はあまりにも多い。

 「竜也殿、囲まれました!」

 仲間が叫ぶ。矢が雨のように降り、盾代わりの竹も次々と貫かれていく。


 竜也は歯を食いしばり、敵の中央を睨んだ。

 ――あの鎧……。馬上に構える武者、義龍の副将だ。

 「頭はあそこか……!」



 「おいテメェら、耳かっぽじって聞け!」

 竜也の怒声が戦場を裂いた。

 「群れだの数だの関係ねぇ! 大将一人出てこいや! テメェらの親分と、タイマンで決めてやる!」


 その豪胆さに、敵兵の動きが一瞬止まる。

 「な、なんだこの若造……」「狂ってやがる」

 ざわめきの中、副将が馬を進めた。

 「無礼者め。殿の首を狙う前に、この儂が相手をしてやる!」


 竜也は唇を吊り上げ、拳を握った。

 「上等だコラァ!」



 剣と拳がぶつかり合う。

 副将の太刀が閃くたびに、竜也はギリギリで身を捻り、懐へ潜り込む。

 拳、肘、膝――路上喧嘩仕込みの肉弾戦法が炸裂し、副将の鎧がへこむ。

 「ぐっ……この小僧、武器も無しに!」

 竜也は吠える。

 「武器なんざいらねぇ! 俺の拳が武器だッ!」


 最後は渾身の頭突き。鉄兜ごと顔面を砕かれ、副将は地に崩れた。


 「副将がやられたぞ!」

 敵兵の列が一気に乱れる。竜也組は叫んだ。

 「頭が潰れた! 今だ、突破するぞ!」



 必死の突撃で包囲を破り、竜也組は山道を駆け抜けた。

 敵兵は指揮を失い、追撃も散漫となる。


 丘の上で息を整えた仲間が笑った。

 「竜也殿……やっぱ頭潰しゃ勝てるっすね!」

 「だろ? 群れなんざ、頭ひとつで成り立ってんだ」

 竜也は鼻で笑いながらも、胸の奥に熱を覚えていた。



 一方その頃。稲葉山城に報せが届く。

 「副将、竜也に討たれました」

 義龍は眉を吊り上げた。

 「……やはり異端者。数の理を嘲り、群れを乱すか。ならば次は、儂自ら――」


 その声には、ただの若造への怒りではなく、得体の知れぬ恐怖が混じっていた。



 夜。清洲城に戻った竜也は勝家に報告を済ませると、仲間と酒を酌み交わした。

 「お前ら、よく持ちこたえたな」

 「いやいや、竜也殿が突っ込むのが見えたら、不思議と背中押されるんすよ」

 「そうだそうだ。タイマンの背中に群れがついてくってやつだ」


 竜也は黙り込み、少し照れたように笑った。

 「……オレは群れねぇ。だが、お前らだけは離さねぇからな」


 その夜の笑い声は、戦国の乱世に小さな火を灯した。


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