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戦国タイマン録  作者: やしゅまる


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第12話「美濃の国境戦」

尾張と美濃の国境――鬱蒼とした竹林の先に、小競り合いの火種が広がっていた。

 「竜也殿、今度は斥候の役目だ。敵の動きを探り、戻って報告せよ」

 柴田勝家の命を受け、竜也は「竜也組」の若者たちを率いて出立した。


 「へいへい、偵察ってのもタイマンよりゃ地味だなぁ」

 「バカ言え、敵と出会えばどうせタイマンになるっすよ!」

 仲間の軽口に竜也は鼻で笑った。

 「奇襲だろうが待ち伏せだろうが関係ねぇ。頭一人ぶっ倒しゃ全部終わりだ」



 夕暮れ時。竜也組は谷間の道を進んでいた。

 突如、木々の陰から矢が飛んだ。

 「伏兵だ!」「囲まれたぞ!」


 竹林の中から武装した足軽が雪崩れ出る。

 「くそっ、やっぱ奇襲か!」

 「竜也殿、数が多すぎます!」


 竜也は血走った目で敵陣の中央を見据えた。馬上に立つ副将格の武士が指揮を執っている。

 「いたぜ、頭はアイツだ……!」

 叫ぶや否や敵兵を殴り飛ばし、一直線に副将へ突撃した。



 副将は長巻を構えて待ち構えていた。

 「小僧、無謀にも程がある!」

 「黙れ! タイマンで決めろやァ!」


 刃が閃く。竜也は身を捻って紙一重で回避、そのまま体当たりで馬から引きずり落とした。

 地面に叩きつけられた副将の顔面に拳が落ちる。

 「ぐはっ!」

 さらに肘打ち、膝蹴り。鉄兜が歪み、血が飛び散る。


 「竜也殿が……本当に副将を!」

 仲間が歓声を上げると同時に、敵兵の列が揺らぎ始めた。

 「副将が討たれたぞ! 退け! 退けぇ!」


 群れは一気に崩れ、竹林に散っていった。竜也組は勝利を収めたのだ。



 だが、喜びは長くは続かなかった。

 「……竜也殿。こいつ、もう……」

 仲間の一人が胸を押さえ、血に染まって倒れていた。矢が深々と突き刺さり、息絶えていた。


 竜也は言葉を失った。仲間の顔はまだ笑っているように見えた。

 「おい……起きろよ。お前、まだタイマンの約束だって……」

 声は震え、拳は血で濡れた土を掴んでいた。



 戦いのあと、仲間の墓が小さな丘に作られた。木の枝で組んだ粗末な墓標に、竜也は拳を突き立てるように置いた。

 「……クソッ。タイマンは最高だ。でも……仲間の死は笑えねぇ」


 夕陽に照らされた竜也の横顔は、いつもの豪胆さとは違っていた。

 「頭を潰せば戦は終わる。けどな……その前に散る仲間がいる。それは絶対許せねぇ」


 拳を強く握りしめる。

 「オレはこれからもタイマンで進む。だが……仲間だけは死なせねぇ。何があってもだ」


 仲間たちは沈黙し、竜也の背中を見つめていた。その姿に、ただの喧嘩屋ではない、仲間を抱える“頭”の影を見たからだ。



 その夜。清洲城に戻った竜也は報告を済ませた後も、無言で拳を握り続けていた。

 信長は遠目から竜也を見て笑った。

 「……あやつ、ただの乱暴者ではないな。拳の裏に、仲間を思う心を宿したか」


 そして呟いた。

 「タイマンと群れ――その二つを背負う者こそ、乱世を変えるかもしれぬ」


 竜也は空を仰ぎ、墓前で誓った言葉を胸に刻んでいた。

 ――タイマンは俺の道だ。だが仲間の命は、何よりも重ぇ。


 その決意は、やがて乱世を震わせる新たな力へと変わっていくのだった。


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