第10話「戦国タイマン録の幕開け」
永禄の世。尾張と美濃の国境では、大規模な合戦が始まろうとしていた。
織田軍と斎藤軍が正面から激突する――戦国の常識通りであれば、数と数、槍と槍の押し合いで決まるはずの戦いだ。
その最前線に、竜也と「竜也組」の若者たちが並んでいた。
「おい竜也殿……マジで行くんすか、こんな大軍相手に」
「怯むなコラァ! 戦なんざ群れじゃねぇ。頭一人ブッ倒しゃ全部終わりだろ」
竜也は唇を吊り上げ、拳を握りしめた。
鬨の声が轟き、鉄の波が押し寄せる。
通常なら蹂躙されるはずの小隊。だが竜也組は一歩も引かず、拳を振るった。
「うおおおっ!」
竜也の拳が兵の兜を粉砕し、背後の若者が丸太で敵兵を薙ぎ倒す。槍衾を突破し、蹴りと体当たりで敵列を押し返す。
「な、なんだこいつら……武器を持たずに突っ込んでくる!」
斎藤軍は混乱した。兵が一人、また一人と吹き飛ばされるたびに、竜也組の勢いは増していった。
◆
戦場中央。馬上から陣を指揮する斎藤の将がいた。
「尾張の雑兵ども、調子に乗るな!」
その男は鎧姿に大薙刀を構え、部下を鼓舞していた。
竜也はその姿を見つけ、口の端を吊り上げる。
「見つけたぜ……頭はテメェか!」
叫ぶや否や敵陣に突撃し、周囲の兵を殴り飛ばしながら将の前に立ちはだかった。
「おいテメェ! 戦なんざどうでもいい! タイマンで決めようぜ!」
突拍子もない挑発に兵たちはどよめいた。
「た、タイマンだと……戦場で何を言ってやがる!」
「バカな奴……!」
将は笑い飛ばした。
「小僧、命が惜しくば下がれ! この大軍を相手に一人で何ができる!」
竜也は拳を掲げ、叫んだ。
「できるかどうかなんざ関係ねぇ! テメェをぶっ倒せば終わりだ!」
◆
次の瞬間、竜也は地を蹴った。
大薙刀が横薙ぎに迫る。竜也は身を沈め、寸でのところでかわし、そのまま拳を叩き込んだ。
「ぐっ……!」将が馬上でよろめく。
「オラァッ!」竜也は馬の腹に飛びつき、巨体を引きずり落とした。土煙の中、両者は組み合い、拳と薙刀の柄で殴り合う。
「馬鹿な……兵法も陣形も無視して、ただ拳で挑むとは!」
「うるせぇ! タイマンは拳で十分だ!」
竜也の膝蹴りが鎧の胸板を歪め、将の口から血が飛ぶ。最後に渾身の張り手を顔面に叩きつけた。
「ドガァッ!」
鉄兜が砕け、将は白目を剥いて倒れ込んだ。
沈黙。
次の瞬間、斎藤軍の兵は一斉に叫んだ。
「し、将がやられた! 退けぇ!」
軍勢が蜘蛛の子を散らすように崩れていく。
◆
戦場の只中に立つ竜也。血と泥に塗れた拳を高く掲げた。
「聞けェッ! 群れでの戦なんざクソくらえだ! オレのタイマンで決まったんだよ!」
その異端の叫びは、敵も味方も圧倒した。
「本当に……一騎打ちで戦をひっくり返した……」
「竜也殿こそ、乱世を変える男かもしれぬ!」
織田軍の兵たちが歓声を上げ、戦場を揺らした。
◆
清洲城に戻ったのち、信長は豪快に笑った。
「見事だ、竜也! まさしく戦国の常識をぶち壊した!」
だが竜也は肩をすくめただけだった。
「群れとか天下とか、どうでもいい。オレはただ、強ぇ奴とタイマン張れりゃそれでいいんだ」
信長は笑いながらも、その拳の先に未来を見た。
「……面白い。この乱世、お前の拳がどこまで通じるか、見物だな」
◆
――こうして、群れを嫌い、タイマンを貫く竜也の戦いは、本格的に戦国を揺るがし始めた。
「戦国タイマン録」の幕は、今まさに開かれたのである。




