喫茶店の予約席 第2話:聞こえない“空席”
こんにちは!昨日の続きです。
新しいお客さんを逃してしまい、もどかしい思いを抱える昭雄マスター。
そんな頑固な彼の元に、文が、ある“おせっかい”な提案を持ってやってきます。
その日の午後、常連客の波が引いた頃合いを見計らって、文が「珈琲館」にひょっこりと顔を出した。
「マスター、こんにちは。今日のコーヒーも、すごくいい香り」
「おう、文ちゃんか。いらっしゃい」
ぶっきらぼうな口調は相変わらずだが、その声には、文への親しみがこもっている。
文はカウンターの隅の席に座ると、いつものブレンドを注文した。
昭雄さんが、手慣れた様子で豆を挽き始める。店内に、香ばしいアロマが一層強く広がった。
文は、その昭雄さんの真剣な横顔を伺いながら、思い切って、ずっと気になっていたことを切り出した。
「マスター、もしかして、お店が満席だと思われちゃって、困ってない?」
その言葉に、昭雄さんの手が、一瞬だけぴたりと止まった。
図星を突かれ、彼は少しだけ気まずそうに、低い声で「…まあな」と、ぼそりと認めた。
「それなら、@SHOPに、お店の空席状況を表示する機能があるんだけど、使ってみない? カウンターの下にタブレットでも置いといて、ボタンを押すだけなの。今、席が空いてるかどうかが、お客さんのスマホに伝わるのよ」
文の提案に、しかし、昭雄さんは、ぷいと横を向いてしまった。
「いらん。そんなことをしたら、せっかくの店の雰囲気が台無しになる。うちの店はな、客に媚びるような安っぽい店じゃねえんだ」
その頑なな態度に、文は「そっか…」と呟き、それ以上何も言えなかった。
彼が、どれだけこの店の「空気」を大切にしているか、誰よりも知っているからだ。
その夜、一人になった店で、昭雄さんは最後のカップを洗いながら、文の言葉を思い出していた。
(客に媚びる…)
本当にそうだろうか。
席が空いているという、ただの「事実」を知らせるだけ。それは、果たして、媚びることなのだろうか。それとも、文が言うように、「親切」というものなのだろうか。
自分のコーヒーを、一人でも多くの、本当に味わいたいと願う客に届けたい。その商売人としての想い。
そして、この店の静かな時間を、流行りのデジタルなもので乱されたくない。その職人としてのプライド。
二つの想いが、彼の心の中で、湯を注がれたコーヒーの粉のように、静かにせめぎ合っていた。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
昭雄マスターの職人としてのプライド、格好いいですが、少しだけ不器用ですね。彼の心を動かす、何かきっかけは生まれるのでしょうか。
次回、このエピソードもついに完結です!
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