表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
案外、世界は優しさでできている  作者: かつを
第二部 商店街編
91/119

喫茶店の予約席 第1話:満席の“壁”

こんにちは!物語も後半戦。

今回の舞台は、商店街の片隅で、長年、時を刻んできた純喫茶です。

常連さんに愛される、素敵なお店。

しかし、その人気が、新しい悩みの種になっているようです。

ほしふる商店街の喧騒から、一本だけ脇道に入った場所。

 

そこに、純喫茶「珈琲館」は、まるで時間の流れから取り残されたかのように、静かに佇んでいた。

 

赤錆の浮いたブリキの看板、蔦の絡まるレンガの壁。

チリン、と澄んだ音を立てるドアベルを鳴らして中に入ると、炒りたての豆が放つ、芳醇な香りが優しく鼻をくすぐる。

 

マスターの昭雄さんは、この場所で、もう四十年以上もネルドリップ一筋でコーヒーを淹れ続けてきた、昔気質の職人だ。

磨き上げられた分厚い一枚板のカウンター、少しだけ軋むビロードの椅子、そして壁に掛けられた振り子時計の穏やかな音。

店内は、いつも常連客の途切れない会話と、マスターが淹れるコーヒーの香りで、心地よく満されていた。

 

しかし、その店の主である昭雄さんは、最近、カウンターの内側で静かなため息をつくことが増えていた。

 

店の窓から外を眺めていると、若いカップルや、スマートフォンを片手にした観光客らしき人々が、店の前に置かれた手書きのメニューを、興味深そうに覗き込んでいく。

その度に、昭雄さんの心には、小さな期待の灯がともる。

 

だが、彼らは決まって、店の中をちらりと覗き込み、そして、諦めたように、あるいは、遠慮するように、賑やかな商店街のアーケードの方へと踵を返してしまうのだ。

 

(…満席だと、思われちまったな)

 

彼の店は、カウンターが七席、そして二人掛けのテーブル席が三つだけの、こぢんまりとしたお店だ。

源さんのような長年の常連さんが三人いるだけで、外から見れば、どうしても満席に見えてしまう。

実際には、すぐに席が空くことも多いし、一人ならカウンターに滑り込めることも少なくないのに。

 

せっかく、自分の淹れるコーヒーに興味を持ってくれた、未来の常連客かもしれない人々を、みすみす逃してしまっている。

その事実が、昭雄さんの職人としてのプライドを、じわりと、しかし確実に締め付けていた。

 

しかし、彼もまた、八百屋の源さんと同じ、あるいはそれ以上に頑固な男だった。

「@SHOP」の噂は、もちろん文から聞いていた。商店街の仲間たちが、そのアプリで活気を取り戻していることも知っている。

けれど、彼は首を縦に振らなかった。

 

「俺の店は、そういうチャラチャラしたもんとは違うんだ」

 

そう言って、彼は今日もまた、カウンターを磨きながら、店の前を通り過ぎていく新しい客の背中を、ただ黙って見送るのだった。

お読みいただき、ありがとうございます!

常連さんに愛されているからこその、新しい悩み。昭雄マスターの頑固さと、もどかしさが伝わってきますね。

この状況、どうすれば変わるのでしょうか。続きはまた明日!

ーーーーーーーーーーーーーー

この物語の公式サイトを立ち上げました。


公式サイトでは、各話の更新と同時に、少しだけ大きな文字サイズで物語を掲載しています。

「なろうの文字は少し小さいな」と感じる方は、こちらが読みやすいかもしれません。


▼公式サイトはこちら

https://www.yasashiisekai.net/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ