声に出せない“SOS” 第3話:“ありがとう”の循環
マネージャーの佐藤は、ワンチームの提案を受け、高橋に彼の得意なデザインの仕事を託しました。
それは、彼の心を救う、一筋の光となるのでしょうか。
エピソード1-2、完結編です。
プレッシャーのかかるコーディングから一時的に解放された高橋は、別人のような集中力を発揮した。
UIデザインは、彼の最も得意で、好きな仕事だ。
彼は、楽しみながら、しかし猛烈な勢いで作業を進め、その日の夜までに、誰もが息をのむほど洗練されたデザイン案を完成させた。
翌朝。
佐藤が、その新しいデザイン案をクライアントに見せると、電話の向こうから、手放しの称賛が聞こえてきた。
佐藤はすぐに、チーム全員が見える『ワンチーム』のチャットチャンネルに書き込んだ。
「【朗報です!】クライアントが、新しいUIコンセプトを絶賛していました!
これは、急な依頼にもかかわらず、最高の仕事をしてくれた高橋くんのおかげです。
高橋くん、本当にありがとう!」
そのメッセージに、チームのメンバーから、称賛のリアクションアイコンや、「すごい!」「さすがだね!」といったコメントが次々と続く。
高橋は、自分のデスクで、その感謝の連鎖を、少し照れくさそうに、しかし嬉しそうに眺めていた。
自分は、このチームに必要な人間なのだ。
その当たり前の事実が、乾いた心に温かく染み渡っていく。
その日の午後、彼は、あれほど苦しんでいたはずのコーディングの課題に、すんなりと解決の糸口を見つけることができた。
終業後、高橋が帰り支度をしていると、佐藤が彼のデスクにやってきた。
「高橋くん。今日のデザイン、本当にありがとう。助かったわ」
高橋は、顔を上げて、心からの笑顔で言った。
「いえ。佐藤さんこそ、ありがとうございました。あの仕事、すごく楽しかったです」
二人の間に、静かで、温かい相互理解の空気が流れる。
この会社は、このチームは、ちゃんと自分のことを見ていてくれる。高橋は、そう確信できた。
オフィスの窓から見える夕焼けは、やけに優しく見えた。
エピソード1-2、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
「ありがとう」という言葉の持つ、温かい力の連鎖が描けていれば嬉しいです。
さて、個人の問題が解決したチームですが、次は、チーム全体の“ある文化”が、新しい課題として浮かび上がってきます。
次のエピソード『1-3:会議室の“沈黙”』も、お楽しみに。
明日から、また新しいお話が始まります!
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今後は、キャラクター紹介や、作中のITシステムの解説なども充実させていく予定ですので、お楽しみに!
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