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第3話 銀色の生き物との再会

 エレキ・キャップで作った黒い罠が、森の一角に再び出現していた。

 ただ、ドラゴンを一匹捕らえた時とは違い、黒い糸で囲われている範囲は数倍広くなっている。また、黒い糸が木の上から下まで、何重にも巻かれているので、頑丈な檻のようになっていた。


 こんな大掛かりな罠を張っても、パーチェは半信半疑だった。


『あのドラゴンに、いつもの方法が効くのだろうか? そもそも、あれは本当にドラゴンだったのだろうか? 翼を持つドラゴンなんて初めて見た。しかしあの鳴き声は、確かにドラゴンの鳴き声だった…』


 思いふける彼に、馴染みの甲高い声が届いた。

「ちょっと!」

 ハッと上を見るとボギーが木の枝に留まっていた。

 パーチェを怪訝な顔で見下ろしている。

「ボーっとしないでよ。ドラゴンに食べられちゃうわよ!」

「ごめん」

 苦笑するパーチェに、ボギーはため息をついた。

「もう…『呼ぶ』わよ。いいわね?」

「お願いします」

 ボギーが顔をあげた。先ほどまでコロコロ変わっていた顔が、一変して無表情になっている。

 それは本物の生き物のようなボギーが、機械になる瞬間だった。ボギーは空に向かって、小さなくちばしを開けた。

 するとそこから、音が鳴り始めた。

 複数の弦楽器が高音を同時に弾いたような音だ。旋律もなく、ずっと一定のリズムで鳴っているので決して気持ちの良い音ではない。パーチェも耳を塞いでいる。

 

 音を出してすぐに異変は起きた。地響きがしたかと思うと、ドラゴンが一匹、また一匹と姿を表したのだ。

 ドラゴンは音に導かれるように、パーチェたちに向かって突進してくる。

 

 彼らの視界には、パーチェの手前にある黒い罠がしっかり見えている。

 しかしドラゴンは一匹残らず、そのまま罠に突進していった。当然、黒い糸が何十にもなって身体中にまとわりつく。

 黒い糸に巻き付かれたドラゴンたちは、バランスを崩して地面に倒れ込んだ。

 大きなミノムシみたいになったドラゴンは、状況が飲み込めずにミノムシ同士で顔を見合わせた。


グルルルル?


 そうして、抜け出そうと皆必死になってもがき始めた。地面に体を擦り付け、右へ左へと巨体をゴロゴロ動かしている。そうしてもがいているうちに、ドラゴン同士がぶつかった。


グルルルル!


 途端にぶつかったドラゴン同士が、今度は睨み合って威嚇し始める。鋭利な牙を見せつけ合い、ケンカが始まりそうな雰囲気である。

 ところが、どちらも黒い糸が巻き付いているため、どうにもこうにも攻撃することができない。そうする最中にも、別のドラゴンがぶつかってくる。また別のドラゴンと威嚇が始まる…ずいぶん間抜けな光景である。


 そんな事が目の前で起ころうとも、パーチェの表情はピクリとも動かなかった。

「やはり、効かないのかな」

 パーチェの顔が曇り始める。

 

 その時だ。


 風がどこからか吹いてきた。髪を大きくかき乱すほどの大きな風だ。そう、あの翼を持ったドラゴンを初めて見た時のような風であった。


『もう一度、キミに会いたい…』


 パーチェは願いながら、空を見上げた。

 見上げた途端、パーチェの目が大きく開かれた。彼の瞳には、待ち侘びた生き物の姿が映っている。

 体が銀色に光り輝いている。しかし胴体から翼にかけて、鱗の色が少し違っているのがパーチェにはわかった。翼に近くなると青色が混ざり、太陽の光に輝く海のようで美しかった。


『ボギーの超音波に反応して、この子はやって来た。翼を持つけど、やはりドラゴンなんだ。しかし…ああ…ああ、なんて美しいんだ!』


 パーチェの心臓が飛び出しそうな位高鳴っている。

 一方の翼を持ったドラゴンは、冷静に地上の様子を観察していた。罠にはまっている数匹のドラゴンの状態を理解したようだ。地上でもがく仲間たちの様子に目を細めている。


『なんて愚かな』


 そう呟いているようであった。翼を持ったドラゴンは細めていた目を閉じ、翼を大きく羽ばたかせた。そしてまた大きな風を吹かせると、地上へは降りずにそのまま飛んで行ってしまった。

「待ってくれ!」

 ドラゴンが飛んでいった方向へ、パーチェは走りだした。


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