自殺ドッキリしてみた
『みんな今までありがとう。私は至らない聖女でしたが、国のために尽くすことが出来て幸せでした。
今にも崩壊しそうだった国も今では豊かになり、食べ物にも飲み物にも着る服も住む場所にも誰も困らなくなって。
みんなが幸せに笑い合う素晴らしい国となりました。
だから、私がいなくなってももう誰も困らないと思います。
本当に、今までありがとう。ごめんなさい』
そんな遺書らしきモノを見て、俺の中のなにかがブチっと切れた。
ともかくあのバカを探し出してこれについて問い詰めてやろう。
そう思って、教会内の色々な場所を探したがあのバカは何故か見つからない。
まさかと思って最後の最後に俺の部屋に入ると、あのバカはいた。
床に横たわって、寝ている。その手元には、いつだか没収したはずの自決用の毒の入った瓶。
「…は?」
なんで、どうして。
頭の中でそんな言葉だけがグルグルと回る。
頭がいたい。吐き気がする。気持ち悪い。
震える身体を叱咤して、無理矢理あいつを抱き起す。いつも温かな子供体温のはずの柔らかな身体は、今は冷たくてかたい。
脈を確認するが、何も感じられない。心臓の位置に手を当てても、何も感じられない。
「…なんで」
なんでだよ。
なんで今なんだよ。
ドラゴンの出現で壊滅状態だった国を、教皇である俺と聖女であるお前で必死に回復して。
時には反発もあった。責められもした。それでも二人で励ましあって、残された国民たちを導いてきた。
やっとみんなを豊かに幸せにして、辛い記憶も乗り越えて。ようやく、ようやく俺たちが幸せになる番だと思ったのに、どうして。
「…バカ」
涙が溢れて止まらない。それでもあいつは起きない。なんでこんなことに?
誰がこいつをそこまで追い詰めた。
誰がこいつを死に追いやった。
許さない。
許さない許さない許さない許さない許さない…
「わっ!」
「…は?」
「びっくりしたー?ドッキリ大成功ー!!!」
にっこりいつもの調子で笑って、いきなり起き上がるあいつに言葉が出ない。
とりあえず無理矢理押さえつけて脈を確認する。脈に異常はない。胸に手を当てる。心臓の鼓動を感じる。
体温も普通に温かい子供体温。身体もいつも通り柔らかくて硬直してない。
ほっとして、そしてドッキリ大成功という言葉が頭で整理できて。
あいつの肩をガシッと掴んだ。
「え、え」
「誰に唆された?」
「え」
「自分で準備をやった訳でも、自分で小細工した訳でもないだろ。魔法は苦手だもんなぁ?そもそも一人でこんなドッキリ考えつく頭もないだろ。誰に唆された?」
「…お、王子殿下が」
そこまで聞いて手を離す。そして立ち上がった。俺が怒っているのにようやく気付いたらしいアホは、震え上がっている。
「あのボンクラ、王家では手に負えない問題児だと聞いて仕方なく預かってやったのに…シメてくる」
「あ、あの」
「お前はここで待機」
「え」
「戻ってきたら…わかるよな?」
ぴっ…と声にならない悲鳴を上げて青ざめるがもう遅い。我が国たった一人の聖女だという自覚も、俺の唯ひとりの心の支えだという自覚もないアホには色々と思い知らせる必要がある。
王子…といっても末の、五番目の命令なんて聞き流せばいいのに乗ってやるからこうなるのだ。しかもお前、割とノリノリだったもんな?
戻ってきたら覚悟しておけよ。
クソガキもシメて、大号泣させた後憔悴しきるまで反省させた。
アホも同様に泣くまで理詰めで説教をして、反省を促した。
結果クソガキはさすがに少しは大人しくなり、その後の問題行動はだいぶなりを潜めた。結果王家に戻れた。
で、アホももう生死に関わるドッキリはしません。命大事にしますと誓いを立てた。
聖女の誓いは絶対なので、とりあえず一安心だ。
「教皇様、本当にごめんなさい…平和になってお役目も果たせたから安心して、調子に乗ってました…」
「本当に最低」
「ごめんなさい」
ショボくれてきちんと反省しているのはわかるが、なんだか嬉しそうな雰囲気も感じて疑問に思う。
「…なに」
「え?」
「なんでお前、嬉しそうなの」
問えば、なんだか恥ずかしそうにはにかむ。
「だって、私が死んだらあんなに泣いてくれるんだなって」
「は?」
ドスの効いた声が出た。アホもまずいと感じたのか肩を跳ねさせる。
「あ、あ、あの、愛されてるなって感じちゃって…ごめんなさい!」
「…はぁ」
まあ、今まで愛がきちんと伝わっていなかったのならそれは俺の不手際だけど。こんな愛の伝わり方は嫌だ。
「あのさ。愛してるって言って欲しいなら素直にそう言えばいいよね?」
「は、はい」
「次からはもうバカなことするなよ」
「はい!!!」
「…愛してるよ」
ぼそっと言っておく。するときょとんとした顔をされてなんだかムカついた。
が、一拍おいてものすごい嬉しそうな顔で頬を染めて何度も頷いているのを見てちょっとは許してやる気になった。
「私も教皇様を愛しています!」
「おいて逝くなんて許さないからな」
「もちろんです!」
あんな最低なドッキリ仕掛けといてなにがもちろんですだアホ。
まあでもどちらにせよあのドッキリの後すぐに、お互いの寿命が尽きない限り片方だけ残して逝くことは出来ない呪いをこっそりアホと自分にかけてあるのでおいて逝かれることはないのだが。
わかりやすく言えば寿命を分け合うシステムである。死ぬほどの大怪我をしても病気になっても安心なわけだ。本人はその分治るまで痛いし苦しむけど。
「後悔してももう遅いからな」
「なにがですか?」
「知らない」
「えー?」
「ずっと側にいろよ」
俺がそう命令すれば、アホの子は素直に頷いた。
「はい、誓います!」
「…ん」
聖女の誓いは絶対。破られることはない。ほっと安心して、あいつの手を握る。
温かい手の感触に、心が凪いだ。
【長編版】病弱で幼い第三王子殿下のお世話係になったら、毎日がすごく楽しくなったお話
という連載を投稿させていただいています。よかったらぜひ読んでいただけると嬉しいです。