表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

ショートショート9月〜4回目

身代わり人形

作者: たかさば

私の特技…それは、身代わり人形を作ること。


自身が編み出した、現代に唯一存在する、秘術。

一代分限…門外不出の秘術、他言無用の奥義。


神に賜った土地に種をまき、天の恵みに神酒を交じらせた水で芽を育み、伸びた作物を刈り、何日も呪文を唱えながら繊維を叩き、大地から湧き出した聖水にさらして紙を漉き、太陽の光を七日間浴びせ、満月の光に七時間あて、先祖代々伝わる黒曜石で研いだ刃で人型を抜き、体液で呪言を記すことで……身代わり人形は完成する。


私の代わりに災厄を受け取り、その存在を散らす、身代わり人形。


時に真っ二つに裂け。

時に火で炙られ。

時に土に埋もれ。

時に川に流れ。

時に渓谷の風にのり。

時に風船と共に旅立ち。

時に誰かの鞄の中に。

時に誰かの胃袋の中に。

時に誰かの郵便受けの中に。


悩み、迷い、怒り、悲しみ、嘆き、愛、欲、憎しみ、願い、あらゆる私の感情を全て受け止め、人形は消えていった。


身代わり人形があったから、私は…生きている。

身代わり人形があったおかげで、私は…生きることができた。


……身代わり人形が消えるたびに、私は健やかになれた。


悩みが消えて、明るくなれた。

迷いが消えて、道を選べた。

怒りが消えて、優しくなれた。

悲しみが消えて、笑顔になれた。

嘆きが消えて、過去を振り返らなくなった。


あらゆる執着が消えて前向きになれたのは、身代わり人形のおかげだ。


病気、悩み、怒り、恨み、事故、のろい、人間関係…ありとあらゆる不愉快な現象から、私を守ってくれた。

運命、宿命、使命…、ありとあらゆる避けては通れない道筋を、私の代わりに受け止めてくれた。


……身代わり人形は、いつでも…私を救ってくれた。


冷たい他人に負けずに済んだ。

愚かな他人に振り回されずに済んだ。

過去に囚われて未来を絶望せずに済んだ。

低能な集団の主張を理解せずに済んだ。

気味の悪い存在を一掃する事ができた。

頭の悪い存在をかわすことができた。

下世話な言葉を聞き流すことができた。

身を滅ぼす誘惑を断ち切ることができた。


身代わり人形を作るたびに新しい自分が生まれ…、新しい自分が生まれるたびに古い自分が消え…。


物分りの良い私が、身代わり人形と共にこの世から消え……。

他人を憎む私が、身代わり人形と共にこの世から消え……。

不幸に喘ぐ私が、身代わり人形と共にこの世から消え……。

悩んで身動きの出来ない私が、身代わり人形と共にこの世から消え……。

他人を優先させる私が、身代わり人形と共にこの世から消え……。

一般常識に振り回されていた私が、身代わり人形と共にこの世から消え……。

優しかった私が、身代わり人形と共にこの世から消え……。

面白かった私が、身代わり人形と共にこの世から消え……。


今、作っている、身代わり人形が完成したら…どんな自分が生まれるのだろう。


私は、身代わり人形を作ることができる。

私は、身代わり人形を作れば、生きていける。


……今、作っている身代わり人形が完成したら、どんな自分が消えるのだろう。


私は、身代わり人形を作ることしかできない。

私は、身代わり人形を作らなければ、生きていけない。


……今日も、私は、身代わり人形をこしらえる。


……私には、身代わり人形を作ることしかできないから。

私は……、身代わり人形を作らなければ、生きていけないから。


……今日も、私は、身代わり人形をこしらえる。


……今日も、私は、身代わり人形を。


……今日も、私は。


………私、は。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ