サイド:宇宙コロニー軍③エセルバート・ダスティンという男
自販機で購入した紅茶を飲み干したエセルは、缶をゴミボックスに捨てて、休憩用に置かれていた長椅子から立ち上がった。
(今のところ、出撃命令までは出ていない。調査隊の報せによる事でもあるし……自室に戻るか?)
少し悩んだ後、自室の方へ向かうことにしたエセルは、母艦内を進む。
宇宙コロニー軍の母艦……アルストロメリア。
花の名を冠したこの船の中が、今の彼らの家であり、基地だ。
白を基調に色鮮やかなラインが入った母艦を、気に入っている者も多いようだった。
(……まぁ、関係ないけどな……)
生憎、エセルには興味がない事であり、熱もない。
ただ一つ、彼が興味を持っている事があるとすればそれは――。
(やっぱ、缶の紅茶は可もなく不可もなくだな)
彼の唯一の趣味。
それは紅茶に多少のこだわりがある事だ。
もっとも、知識が深い訳でもなく、愛飲しているブランドがある訳でもない。
ただ、好みやすいものがあるだけ。
――エセルという人物は、どこまも希薄な思考の持ち主なのだ。
(さて、暇だし……仮眠でもするか)
自室に戻るなり、備え付けのベッドに寝転がる。大の字になり、天井を見つめていると、携帯端末のバイブ音がした。
(なんだ? つーか、誰だ?)
視線をやれば、私用の端末からだった。表示を見れば……母親からだった。そのメッセージを見る事すらせず、エセルは静かに息を吐き、仮眠に入った。
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「あら? お早いのね、エセルバート少尉」
仮眠後。
ミーティングルームへ入ると、そこにはすでにマリーがいた。
彼女は読んでいた本を仕舞う。
その佇まいは美しく、気品すら感じられるものではあったが、エセルの感想はそこまでだった。
「アンタも早いじゃないか」
「えぇ、気合を入れないとですもの。貴方は違うのかしら?」
訊かれて、エセルは思わず口ごもる。なにせ、彼にはこの任務への想いも熱も、一切ないからだ。
その様子を見たマリーは、エセルの回答を待っているようだった。
仕方なく、エセルは口を開く。
「俺は、俺の仕事をするだけだ」
「……そう。そういうのも、在り方の一つね」
否定もせず、だが肯定もしない彼女の態度に安堵したエセルは、離れた席に座ると静かに待機する。
これからの事に想いを馳せる事はない。
なにせ彼には……地球への興味も関心も、全くないからだ。
(これからの事なんて、どうでもいい)
どこまでも無関心に、そして冷静な思考を巡らせるエセル。
そうしている内に、残りの二人もやって来たのだった。