サイド:火星連合軍②怪物
格納庫に着いた摩希人は、自身の愛機を見つめる。
機体名、銀狼幻月。
機体コンセプトは……狼男だ。
ナイトメア小隊は、古からの伝承上の怪物をモチーフかつ、コンセプトにして設計されている。
そのため各自の機体の見た目も、武器もバラバラなのだ。
(僕の幻月は、コンセプトは狼男なのに……武器が日本刀だったりするのが不思議だけど! それはそれとして、気に入っているからいいかな!)
どこまでも楽天的に、そして軽薄に思考を巡らせる摩希人。
そこに、先程遅刻してきたドゥエインがやってきた。
「おや、摩希人少尉? 何をなされているんです?」
「あぁ、ドゥエイン少尉! いや~僕の機体、良いデザインしているな~って思ってたところです!」
摩希人の回答に、ドゥエインは目を瞬かせた後、ゆっくりと口を開いた。
「な、なるほど……? 機体、ですか」
「ドゥエイン少尉の機体も良いデザインですよね! 確か、コンセプトは吸血鬼でしたっけ?」
「え、えぇ。ブルートヴァッヘですね……。そ、それよりも! 少尉は戦いに対して、その、恐怖とかないんですか?」
シグルドにも似たような質問をされた事を思い出しながら、摩希人は答える。
「はは! シグルド中尉にも同じような事を訊かれましたが! 僕はポジティブに生きたいのですよ! なので、お気になさらず!」
そこで言葉を区切ると、摩希人は話題を変えた。
「それよりも! シグルド中尉のグリ=ドラクレア・オラシオン! コンセプトは蝙蝠でしたっけ? 少し機体のモチーフがドゥエイン少尉と似ていて面白いですよね!」
「に、似ていますかね……?」
困惑するドゥエインに対し、摩希人が力強く答える。
「だって、吸血鬼と言えば蝙蝠じゃないですか! 似てますよ~! それとは別に、スヴェト少佐のアスール・オブ・シュガール改! ゴルゴーンなんて、開発者の方はどんな発想なのでしょうね? 勿論褒めていますよ!」
一人盛り上がる摩希人に、ドゥエインの視線が彷徨う。話しかけた事を後悔した顔をしながら。
しかし、摩希人がそれに気づくことはなく。
ドゥエインはそれとなく話を変えつつ、離れて行った。
(不思議な方だな~! 気弱なのかな? あ、でも! うたた寝で遅刻するんだから、案外図太いのかも? 愉快なお方だ! これから仲良くなれるといいな!)
そうして、自分の機体である幻月のコックピット内に入り座ると、OSの確認等、出来うる範囲での確認をし始めた。
――海をみるという、自分のわがままな夢、希望に胸を躍らせながら。