サイド:宇宙コロニー軍②彼らの翼
バード小隊専用、格納庫にて。
「さて、訓練を行っているから問題はないだろうが……。一応、各自の機体の確認をしてくれ」
ナフムから指示を受け、自分達の機体を再度チェックすることになった。
最終チェックとも言える。
(まぁ、確認は大事だからな)
エセルも自身の機体、ゴルドラーベ・グルートを見やる。形こそ人型だが、モチーフは烏だ。
もっとも、なぜ機体色が金色なのかは搭乗者であるエセルには知らされていないが。
(確か、ナフム隊長のがロートシュヴァルべ・グリューエンで……イヴァ少尉のが……ローザタオベ・グランツだったか? そして、マリー少尉のがビルトフォーゲル【プロト】か?)
なぜ機体名だけが旧ドイツ語を使用しているのか? 整備士に訊いてみたことがあるが、彼らも知らないと言っていた。
そのため、技名等は宇宙コロニーでは一般的な旧イギリス英語なのに機体名だけ不明なままだ。
(モヤモヤするが……仕方ないか)
気を取り直して、自身のこれから愛機となるゴルドラーベ・グルートのチェックを行う。念入りに隅々まで。
そうしているうちにあっという間に時間が経ち、エセルはようやく確認を終えた。
(大丈夫そうだな。環境の違う地球でも動けそうだ)
エセル達、宇宙コロニーに住まう人間達は整えられ、人為的に操作された気候に慣れ過ぎていて、突然の気候変動に慣れていないのだ。
だからこそ、気圧等に影響されにくく設計された機体と母艦の中が主な活動範囲だ。
(コロニーの方が住みやすいと思うんだがなぁ)
その時、背後に機械の気配がした。振り向けば、機械仕掛けの動物……アニマロイドの内、エセル専用のアニマロイド、二対の烏型がいた。
「フギンとムニンか……急用でも?」
二対の烏は、何かを発するでもなく静かに佇む。不信に思っていると頭上から声が響いてきた。
「エセル君! そろそろ休憩しなよ~!」
イヴァの声だ。そこでようやく、二対の烏が休憩を促しに来たのだと理解した。
(そういうケアも、確かに含まれていたな……)
「わかった。確認も終わったことだし、ゆっくり休ませてもらう」
答えれば、イヴァは満足そうに自身の機体のそばに行ってしまった。どうやら、彼女はエセルの様子を見に来ただけだったらしい。
(仲間思い……か?)
その言葉はしっくり来なかったが、エセルは気にするのをやめた。
(どうせ、任務でしか関わらないのだからな)
どこまでも冷静で、冷徹な自分に思わず苦笑しながら、近くの自販機まで行き、多種にわたる紅茶の中から好みの味を選ぶと飲み始めるのだった。