サイド:火星連合軍①地球の子ら
(ここが僕らの拠点、宇宙母艦アース・ザ・ソンかぁー! いやー広くて大きくて! 始まるんですね! いよいよ!)
自分の中の士気が上がるのを彼は体感していた。
この母艦が自分の所属する部隊、ナイトメア小隊の拠点になるからだ。
(いやー今はまだ外を見られていないけれど、いよいよ地球に到達ですからね! 本で読んだ地球とはだいぶ変わっているらしいとは聞きましたが……それでも海はあると観測されていますし。あぁー本物の海を早く見たいなぁ!)
「おい。ぼさっとするなよ? 大上摩希人少尉?」
背後から声をかけられて、摩希人は姿勢を一気に正し声の主へ振り返る。
「はっ! 失礼致しました、スヴェトスラフ・エフセーエヴィッチ・アレンスキー少佐!」
「わざわざフルネームで呼ばなくて構わん。スヴェトと略すことを許可する」
「ありがとうございます! スヴェト少佐!」
お辞儀をすれば、スヴェトは面白いモノをみたかのように口角を上げる。
「映画以外で初めて見たな。確か、おじぎ? だったか? 日本人種がよくやる動作だとか?」
「はい! 日本風習遺産の一つでして! 日本人種はただでさえ数が少ないですからね! 残していくのが大事なんですよ!」
胸を張りながら告げる摩希人に対し、スヴェトが納得したのか話題を変える。
「そうか。さて、ところでそろそろミーテイングの時間なわけだが……」
ミーティングルームには今、スヴェトと摩希人、そしてもう一人……赤髪に薄水色の瞳をした青年、シグルド・フェルンホルムの三人が揃っている。
彼ら、ナイトメア小隊は四人編成。つまり、もう一人いるわけなのだが……。
「ふむ、遅刻か?」
その時だった。足音が響き、慌てて一人の青年が入室してきた。藍色の髪と瞳に褐色肌をした彼に、スヴェトが声をかける。
「ギリギリとはいい度胸だな? ドゥエイン・サージェント少尉?」
「も、申し訳ございません! うたた寝していたら……! 本当に申し訳ございません!」
謝り倒す彼に、スヴェトがため息を吐き、全員揃ったことを確認して告げた。
「これより、任務概要を説明する。全員心するように」
(わ~! 最初はどんな任務なんだろう! 前線での敵勢力との戦いが主な任務とは聞いているけれど……それでも、海くらいは見られますかね!?)
状況とは裏腹に、摩希人の心は希望に満ち溢れていた。
――どんな過酷でも受け入れると言わんばかりに。
(この先、どんな明日が待っているのでしょうか! あぁ、わくわくが止まりません! ご先祖様達の故郷、日本の地へ行く機会もありますかね!)
どこまでも純粋に、そして不謹慎な想いを抱きながら、摩希人は任務について話を聞くのだった。