サイド:火星連合軍⑨彼は畏れられる怪物だった
母艦であるアース・ザ・ソンへと帰還したナイトメア小隊は、格納庫にいた。
摩希人はそこで……もはや咎められる事すらなく、ただただ注意勧告だけの処分を受けた。
それに異を唱える隊員達はいなかったが、明確に彼らと距離が出来ているのは実感していた。
(まぁ、そうなりますよね~。どうでもいいけれど)
どこまでも自己中心的な摩希人の狂気に、皆が気づいてしまったという事実にすら興味を示さない。
鼻歌すら奏でながら、摩希人は格納庫から自室へと戻って行く。
その後ろ姿を、スヴェト、シグルド、ドウェインが見つめていた――
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(おや?)
自室に向かう途中で、気が向いたため食堂へと入った摩希人は、人の少なさに違和感を覚えた。
(不思議な事もありますねぇ……何かあるな?)
鋭い目つきになると、摩希人は周囲を見渡す。慎重かつ警戒しながら。
そうしていると、違和感の正体に辿り着いた。
(なるほど? これは……愉快ですねぇ!)
摩希人が不敵に口角を上げる。
彼が気づいた違和感……それは、脱走兵と懲罰房へ入れられた者達が多かった……という事実である。
火星連合軍内での、士気の低下は実は明確に出ていた。
その結果、この状態という事であり、更に人が減るであろうことは想像しやすい。
だからこそ、摩希人は愉快で仕方ないのだ。
――人の愚かさが、僕は好きだから。
歪な感情である事を自覚しつつ、閑散とした食堂内のタッチモニターから、メニューを選ぶ。
そうして、ハンバーガーのセットを選んだ摩希人は、カウンターへ向かい注文した品を受け取り、適当な席へと座る。
一人でいる事に、昔から慣れているので人目も気にしない。
こうして、どこまでも純粋に狂気を宿した彼の日常は、壊れて行く。
地球の覇権をめぐる争いの、終着を迎えた時に……
(ふー! さぁて、食事を摂りますかね! 美味しそうです!)
決着がつくまで、後――




