サイド:宇宙コロニー軍⑨思考放棄の鳥
「お疲れ様です、エセル少尉」
格納庫から降りて来たエセルを待っていたのは、以外にもマリーだった。彼女が声をかけて来るのは珍しく、エセルは少し驚く。
「マリー少尉、どうかしたのか?」
「あの機体、少し気になりまして」
「あぁ、実に鬱陶しいかぎりだ」
「それもそうでしょうけどれ、何故あの機体はエセル少尉……正確には、ゴルドラーベ・グルートに執着するのでしょう?」
「興味は無いな。敵であれば殺すのみだ」
「そう、ですね……失礼致しました」
それだけ告げると、マリーは去って行った。エセルはそれに構う事なく、自販機に向かう。今日の気分はストレートティだった。その横に、イヴァが来てエセルに声をかけて来た。
「冷たいねぇ~。あのマリーが珍しく声をかけたっていうのに」
「今度はお前か。なんだ?」
「君さ、あの指令の事どう思う?」
イヴァが言っているのは、撤退後すぐに出た――ガイノイド達の元へ一番に辿り着けという上層部直属の命令の事だ。
正直、エセルにとっても不可解ではあったのだが……あえて気にしないようにしていた。
「どうと言われても困る。指令なんて大抵ロクなもんじゃないからな」
「随分な言いぐさだねぇ。君も不満なんじゃないか」
「そういうお前もそうだろう? だが、指令は指令だ。従う他ないだろう」
「おそらく、そこであのイカれている機体との決着だろうね」
「だといいがな……」
会話を終えると、イヴァはその場から去って行った。 それを見送ることなく、エセルは休憩室にそのまま向かい、自販機で買ったストレートティを飲む。
じんわりと広がる風味が、今は心地良い。
(ガイノイド達の狙いは知らんが……指示に従うのみだ。俺達は所詮駒なのだから)
駒が考え事をすれば、待っているのはロクでもない事だけだ。
少なくとも、エセルはそう思っている。
だから……思考を放棄し、戦いに集中する。
何も考えなくていいからこそ、エセルという男は軍にいるのだから――




