サイド:宇宙コロニー軍⑧不機嫌な鳥
時間は再戦前に遡る――。
母艦であるアルストロメリアから発進したバード小隊は、火星連合軍の精鋭部隊に備えながら移動していた。
ここはかつて日本と呼ばれていた地域だ。
東洋の島国であったと、記録が残っている。
そんな地域の、かつて東京と呼ばれていた地域を索敵していた時だった。
あの、銀色の機体が襲ってきたのは……。
「来たか。隊長……」
『あぁ。対応はエセル少尉に任せる。死ぬなよ……』
ナフムの言葉を聞きつつ、カタナを振りかざして来る敵機を迎撃する。銃鎌であるデスサイズガンの刃部分で、カタナを受け止める。斬り払い、距離を取って銃口から弾を放つ。
だが、銀色の機体は綺麗にかわして行く。
(チッ……かわす、か)
彼にしては珍しく、少し苛立ちながら敵機の攻撃をいなしていく。銀色の機体は、執拗にエセルだけを狙ってくる。それがまた、不快で仕方ない。
(何に執着しているのか、知らんが……それに付き合う道理はない)
エセルはデスサイズガンの銃のモードを、実弾からエネルギー弾へと切り替える。そのまま、エネルギー弾を銀色の機体へ向けて放つ。
手加減も何もなく、確実に仕留めるために放った弾は、カタナによって斬り裂かれた。
「なるほど? 対策済み……というわけか」
(気に入らんな……)
エセルは、接近して来る敵機から一定の距離を保ちつつ、攻撃を続ける。だが、相手も引く気はないようだ。カタナによる斬撃が止まらない。それを防ぎながら、次なる反撃を考える。
(斬撃が厄介だな……そもそもゴルドラーベ・グルートは近接特化ではない)
そう。
エセルの乗る機体は、近遠距離が得意な機体だ。つまるところ、完全近接型である敵機との相性が悪い。
だからこそ……エセルは苛立っていた。
(何故、こんな奴のために……労力を割かなければならない? 面倒だ……)
感情を揺れ動かされる事も、命を賭けなければならない事も、全てが不快で仕方ない。この不愉快さから逃れたい……それだけのために、エセルは武器を振るう。
全て、自分のため。
己のこの、苛立ちから解放されたいがため。
それが今、エセルが戦う理由である。
――決着の時が来るのはいつになるのか?
それを知るのは果たして……。




