サイド:宇宙コロニー軍⑦エセルの疑問
イヴァとの会話を終えてから二週間が経過した。
その間にも……争いは日々激しくなっており、バード小隊の出撃回数も増えて来た。
それの要因の一つは、間違いなく損害の大きさだろう。
人的損害――戦死者が増えて来た事だ。
宇宙コロニー軍だけでも相当数出ているのが現状であり、それは士気にもかなりの影響を与えていた。
……離反者の続出がそれを物語っていた。
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「また離反者、ねぇ……? 離反した所で、行く当てなんてあるんだろうか? この地球にさぁ。そう思わないかい?」
バード小隊の待機室にて、イヴァが口を開く。その声色は呆れ半分と言った感じだ。
「同感ですね。火星連合軍に与したとて、状況は変わらないでしょうし。それに、諜報部からの情報ではあちらも離反者が出ているとの事ですしね」
マリーが静かに同意する。それを聞いていたナフムはため息を吐き、頭をおさえていた。そんな中、エセルはどうでも良さそうにしていた。彼にとって、離反者等視界にないのだ。
彼の頭にあるのは……純粋な疑問。
(この地球に住むという事自体、不可能に思える。異常気象のこの状況、そして適合しない人体。なのに何故、ここにこだわる?)
エセルにとって、命を賭けてまでこの地球に住みたいとどうしても思えなかった。それでも離反しないのは、単純にそこまでする気がないからだ。
する気がないというのは、彼にとって地球自体がどうでもよいからだ。いや、自分の命すら……もしかしたら彼にとってはどうでも良いかもしれない。
それくらい、希薄な彼だが……それでも生きていられるのは、生存欲だけは最低限あるからだ。
だからこそ――。
(あの機体にだけは、もう会いたくないが。戦いになったら……勝つ)
それだけは覚悟している事だった。
そんなエセルに、ナフムが珍しく声をかけて来た。
「エセルバート少尉。何か意見はあるか?」
「いえ、特には。ただ……この状態で、果たして覇権等得られるのか? それは疑問ではありますが」
「そうか。まぁ、言いたくなるものも分かるがな……全く」
ナフムの呆れ声から、上層部に何かしら言われているのだろうと察したエセル含めた隊員達は、静かになる。
重い空気を破ったのは、出撃命令のアナウンスだった。
そのアナウンスの内容はある意味読めていた内容ではあったが――。
『バード小隊、出撃して下さい。敵は……火星連合軍の精鋭部隊です』
遂に、再戦の時が来たのであった。




