サイド:火星連合軍⑥怪物の思考
(あー……つまらないなぁ)
摩希人は今、自室で退屈そうに音楽を聞いていた。ここの所、出撃しても件の金色の機体と交戦する事がないからだ。
「なんでかなー? けっこう運は持っている方だと思うんだけどなー?」
一人愚痴ると、ベッドの上をゴロゴロする。何度も、何度も。
彼は今、携帯端末から音楽を流しているのだが、その曲はレトロを超えて古の物である。
それこそ、レコードという音楽の歴史の教科書に載っていた時代の物だ。歴史的遺物として重宝されている楽曲を、摩希人は火星で仕入れていた。
(やっぱり、大昔の曲はいいなぁ~。特に祖国だった日本の曲はたまらないなぁ)
日本人は少子高齢化が進んだ影響で、純血は既に存在しない。少なくとも火星ではそうだ。当然、摩希人にも他人種の血が混じっている。だからこそなのだろう。今は存在しない純血の日本人に憧れがあるのは。
摩希人は、昔から地球に興味があった。執着と呼べるくらいに。
そう、彼は昔からなのだ。
……一度執着したら、それを手放せない。
人はそれを狂気と呼ぶのだが、摩希人は一切気にしてない。
どこまでも自己本位なのが彼なのだ。
(あーあ、早く出撃命令でないかなぁ? そして、あの機体を壊したいよぉ~)
一歩間違えれば戦闘狂だ。
それほどまでの加虐心と、戦闘への意欲。
この衝動を彼は抑える気が全くない。
何故なら、それこそが自分であると自覚しているからだ。
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しばらくして、出撃命令が出た。
(今度こそ、あの機体でありますよーに!)
摩希人は期待を胸に抱き、意気揚々と愛機である銀狼幻月に乗り込む。今回も陣地取りのようなもので、宇宙コロニー軍との小競り合いへの救援要請だ。
そんな摩希人の元へ、通信が入る。スヴェトからだ。
『皆、抜かるなよ? それから摩希人少尉、くれぐれも独断先行しないように』
釘を刺されたが、摩希人は全く気にせず返事をする。
「了解ですー。なるべく気を付けます!」
どこまでも真剣かつ無邪気に、摩希人は我が道を行く。信念ではなく、極めて自己中心的な思考で。
それがナイトメア小隊にとっての課題であり、彼が問題児であると認識されている所以なのだが――本人はそれすら気づかない。
まるで、これが自分であると誇りすらあるかのような振る舞いに、小隊員達から呆れと危惧をされている。
――この問題児をどうしたらいいのか?
扱いに悩まれている事すら興味なく、摩希人という怪物は嬉々として発進して行くのだった。
再度の交戦まで、後……。




