サイド:宇宙コロニー軍⑥二羽の鳥達の疑問
自室にて、エセルは珍しく自身の戦闘記録を見直していた。
交戦中に気づけなかった事があるかもしれないからだ。
(こんな事を業務時間外にするなんてな……この俺が)
自嘲じみた笑みを浮かべる。表情もだが、感情をここまで動かされている事にエセルは自分で驚いていた。
おそらく、死への恐怖と相手への嫌悪がそうさせているのだろうが……それすら不愉快だった。
「どうせ心を動かされるなら、女相手の色恋にしたかったもんだ」
経験がないわけではない。
だが、感情が希薄なエセルにとって……心から人を愛する意味と理由がわからない。
それでも、憧れのような感情くらいはある。
「はぁ……記録を見ても、不愉快なだけか……」
結局目新しい事実は見つからず、ただ相手への不愉快さが深まっただけのエセルは、戦闘記録を閉じた。
目を休めるべく、デスクからベッドに移動すると横たわった。
(眼精疲労か? 珍しいな)
ここまで集中した事なんて、いつぶりだろうか?
それこそ……まだ感情豊かだった幼少期くらいかもしれない。
過去を思い出してしまった事を後悔したエセルは思考を放棄する事にした。ただ天井を見上げるだけ。
そうして、何時間くらい経過したか、数分かあるいは数時間か。
部屋のインターフォンが鳴り、気だるげに起き上がるとモニターを見る。
そこにいたのは、イヴァだった。
(なんの用だ?)
『やぁ、いるかい? 少し話さないかい?』
彼女の意図はわからないが、断る理由が見つからなかったエセルは了承し、ドアを開けて室外へと出た。母艦、アルストロメリアの中は宇宙コロニーと同じような条件下になるよう設計されている。
これは、コロニーの環境に慣れている搭乗員達への配慮である。
慣れ親しんだ空間に近い艦内を、イヴァと共に歩く。
彼女の話とはなんなのか……そこだけ気にしながら。
しばらくして着いたのは、エントランスホールだった。
そこの適当なベンチにイヴァが座り、同じように促したためエセルも座る。少し空間をあけて。
「さて、話というのはね? 正直に尋ねるけれど……君、火星連合軍をどう思う?」
予想外の質問だった。
(火星連合軍について……? 何故そんな事を聞く? そもそも、それに何の意味があるというんだ?)
疑問に思っていると、イヴァが珍しく真剣な声色で一言呟いた。
「ふと思ったのさ……この戦いの始まり。二体のガイノイドの狙いはなんだろうってね……」
言われて初めて持つ疑問。
それがわいた事にエセルは驚きながら、確かにと納得した。
始まりのガイノイドについて、何も知らないと――。




