ツンデレ王子のデレが半端じゃない
公爵令嬢の私───フィユは、一昨日第一王子に婚約破棄され昨日手紙が届き今その手紙主───セイルと新たな婚約相手として会った。
「あの、捨てられた私を拾ってくださりありがとうございます」
「別にお前の為では無い。俺が結婚したい気分のときに丁度よくお前が捨てられてただけだ」
礼を言うと、彼はそっぽを向いた。
隣国の王子である彼は背も高く顔立ちも整っているが、このトゲのある性格のせいで二十二歳になるまでろくに女性と喋ったことも無かったのだそう。
「とりあえずいきなり仲良くするのも怖いだろうから今日からはとりあえず食事だけ一緒にして、慣れてきたら少しずつ距離を詰めていく感じにしようか、お前の為では無いけど」
語尾のようにつくそれが照れ隠しなのは、手紙の内容を思い返せばすぐ分かる。私は微笑んではいと答えた。
それから毎日、彼と朝昼晩を共にした。
「今日は寒いから身体を冷やさないようにかぼちゃのスープだ、いや違うお前じゃなくて俺が冷やさないようにだ」
「今日はいい天気だし外でサンドイッチでも食べよう、言っておくが中身のハムがたっぷりなのはフィユの好物だからではなくたまたま俺がそういう気分だったからというだけだ勘違いするな」
しかも驚くことに、自分で作っているらしい。周囲からは料理王子と呼ばれていた。
そうして一週間、一ヶ月、半年。
距離がだいぶ縮まっていったある日。
「ほら今朝は食パンだ、この卵を乗っけて食べるのだ」
いつものように料理を差し出し、席に座る。
と思ったのだけど、いつものようだったのはそこまでだった。
席に着いた途端、セイル王子から落ち着きが無くなり始めた。
いつもいつも優しくしてもらってる私だ、こういうときに原因を究明した上で助けてあげられなければ、結婚相手として釣り合わない。
しばらくパンを見つめた後、もしやと思って、一つ試してみた。
「あの……」
セイル王子に、できる限り艶っぽく話しかけてみる。肩を揺らして反応した。
「どっどど、どうし……」
「その……そろそろ、寝室を一緒にしてもいいかな、と思うのですけれど……」
言いながら、上目遣いでもじもじしてみた。
すると、
「ふ……ふふ、ははは! そうか、お前がそこまで言うならそうしよう、仕方ないなぁ全く、へへへ……」
嬉しそうに笑いだした。どうやら当たりだったみたいだ。
そしてその夜。
こんこん。
「入りますよ……」
「あっあだっ、ああいいぞ」
ノックしたドアの先で、彼は座っていた。
「じゃあおやすみなさい」
「えっ」
からかうつもりで即刻布団に潜ると、彼の顔は一瞬にして青ざめた。
「えへへ、冗談ですよ。ほら来てください」
そう言って両手を広げれば、顔色はすぐに戻る。
数秒の沈黙のあと、のっそのっそと近づいてきた。
「フィユ……」
肩から大きな手の感触が伝わる。吐息の音が聞こえる。
「いつもいつも素直になれないけど、本当は大好きなんだ、フィユ……」
手が背中に周り、頭を埋めるように、鎖骨に額が当たる。
「昔舞踏会で見た時から一目惚れで、でも話しかけられなくて……婚約者が出来たって話を聞いて、ずっと胸が張り裂けそうだったんだ……でも……」
涙声で私に抱きつく彼の頭をよしよしと撫でる。
背中に優しくシーツが触れたその時、彼は言う。
「大好き……」
蜂蜜のように甘い夜が、ゆるりと始まった。
【読心令嬢】
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↑こういった作品も書いております。二万字いかないくらいの短さなので、よければ読んでみてください!