10.森にプチ家出
新章入ります。
ハルはこの頃不愉快に思ってることがある。
それはいつものように世話を焼いてくるショコラである。
いや、ショコラが嫌いというわけではない。問題はその内容なのである。
「なあ、外に出ないのか?」
今日も今日とてハルはショコラに同じ事を言われて、辟易していた。飽きたように彼女に返す。
「……何で外に出なきゃいけないんですか」
「別に運動しろと言ってるわけじゃない。日光を浴びてくれ」
「そんなん、窓からの光で充分じゃないですか」
「それじゃ足りないだろ!?」
と今日も言い合いに発展していた。
ショコラとしてはハルが3か月飲食睡眠をせずに読書をしたため、心配で健康的に生きて欲しいと言う意図で言ってるのだが、ハルからしたら迷惑すぎる話なのだ。
普段はショコラも折れて話は終わるのだが、この日はショコラも今までの鬱憤が溜まっていたのか、ヒートアップした。
「大体お前は不健康すぎる! 日光に浴びないどころか、運動もしてないだろうが!」
「そんなの大体魔法で解決できるでしょうが」
「健康でないとまず魔法も使えないのよ!?」
「大丈夫ですー。私まだまだ健康だもーん」
「今はよくても、後々に響くぞ!?」
「うるっさいなー」
そう言って、いくらかの本を持っていささか乱暴に立ち上がり、ハルは図書館から出て行った。後ろでは「あ、おい、まだ話は終わってないぞ!」ショコラが叫んでいたがハルは無視した。
さて、図書館から出たハルは自室で本を読もうとし、2階の自室に行こうとしたが、台所から悲鳴があがり何事かと覗く。
「ちょっと、レイラさん! お皿を洗うのはいいけど割らないでください!」
「ああああ、ごめんなさい!」
「あーあ……これで何個目だよ」
「ってサフィ! 泡で遊ばないの! ってあー! レイラさんまた!」
どうやら、朝ご飯の後の片付けを4人でやっているようだが、レイラのドジのせいで大量に食器を色々割ってるらしく、騒動になってるようだ。
この場にいたら巻き込まれて読書時間が減ると確信したハルはそそくさと自室に向かった。
自室は現在掃除中であり、そこにいたのは掃除担当の妖精達だ。しかし、まとめ役のルビィやサフィがいないからかハルの布団をトランポリン代わりにして遊んだり、寝る妖精もいた。
ハルはその様子を見てがっくりと項垂れた。ここで怒鳴ってもいいが、そもそも自分が召喚した訳でないので言うことは聞かなさそうだし、ルビィやサフィが何事かとこっちに来るに違いない。
ハルは諦めたように呟いた。
「……しゃーない、外に出るか」
未だ騒動の続く屋敷を尻目にハルはこっそりと外に出た。
「しかし……どこで読もうかね……」
外に出たハルは草原を少しうろついていた。外で読むのはいいのだが、屋敷2つ以外なにもない草原ゆえに少しでも屋敷にいる住民に見つかったら後々面倒ごとになるためである。
しばらく考えてハルは閃いた。
「そうだ、あそこの森で読もう!」
ハルはこの前自分の魔法で一部の木をなぎ倒した森の方へ向かった。
森に入ってしばらく歩くと動物たちもおらず、静かな空間に辿り着いた。その光景に上機嫌になり、ハルは嬉しくなる。
「うーん、やっぱりいいわね! こういう静かなところで読むのは! なんだかこの世界に来て最初の頃を思い出すわ!」
ハルは嬉々として1本の木のそばに座り持ってきた数冊の本を読み始めた。
それからどれほど経ったのだろうか、もう日が暮れそうな時間になって、ハルは持ってきた全ての本を読み終えた。ハルはあたりを見渡して驚いた。
「えっ!? もうこんな時間なの!? 少しばかり夢中になりすぎたみたい……」
森の中も橙色に染まっており、よほど長い間読書をしていた事になる。
そろそろ、遅いし帰ろうかとハルが立ち上がったときである。何かが、ハルの頬を掠った。
ハルが恐る恐る見ると木にはナイフが一本刺さっており、ゆっくりと振り返ると、殺意を振りまいている、銀髪の麗人がいた。
銀髪の美人はハルにナイフを向けながら聞いた。
「オマエ、そこで何をしていた」
「何って、読書ですよ……」
「ホントか?」
「ホントですって!」
ますます殺意が増す少女にハルは慌てて答え、そして本を取り出す。
「ほら、ホントに読書していただけですから! 怪しい物じゃないですって!」
ハルが持ってきたうちの1冊の本を自分の前に出した。すると先程まで殺意のオーラをだしていた女性は落ち着いた。
「そうか……申し訳ございません。誤解だったみたいです。なんせここにはあまり人が来ないもので……」
「いえいえ、こちらこそ」
女性の先程までの少し乱暴な口調が嘘のように丁寧な言葉になったことにハルは戸惑いつつもハルも謝った。
しかし、内心は(全く、冗談じゃないわよ! こっちは危うく殺されかけたのよ!?)と穏やかではなかった。
「……ところで貴方様は一体どこから来たのです?」
「えーっと、草原の屋敷ね」
「草原のお屋敷ですか、確かに近いですけど流石に今日はもう遅いですね。滅多に来ませんけど賊が来る時もありますから、私が住んでいるところに1泊していきませんか?」
「え、いいの?」
「はい。先程疑ってしまったお詫びもありますし……」
「分かったわ」
見れば、日が大部暮れかかってあたりは更に濃いオレンジになっていたし、身を守るためにハルはその女性に着いていくことした。




