その99 野・KILL YOUのエース無敗両刀の鬼子
右腕に案内させ魔び舎の高等部へとやって来たが、活気溢れる部活動風景がそこらかしこに広がっていた。
やってる事自体は人間界の部活動と大差ないが、どこも男女混合でやってる様だ。
「なぁ右腕。どうして部活動は男女別じゃないんだ」
「ざっくり言えば、注目度合いの格差を少しでも緩和する為ですね」
「ほぅ」
部活動以外にも言えるが、男女別にすればどちらか一方に注目が行きがちなのは事実だ。
一概には言えないが容姿が優れている程、必然的に注目もされ、実力や実績がなくとも人気が衰える事はない。
ろくに見定めもせず、人気だからホイホイ釣られるのも、そいつなりの生き方だから否定はしない。
が、そんな事を気に留めず、がむしゃらに生きる奴らの方が、数倍も数十倍も輝いて見えるもんだ。
どうしても環境によっては、そうもいかないだろうが、ちゃんと見ている奴が必ずどこかいる。
そういった場を魔び舎に設けたのは、大変に素晴らしいことだ。
滅多なことがない限り、右腕の奴を褒めたくないが、今回ばかりは褒めちぎってやるか。
「お前にしては中々に良い事をしたな」
「へ? ワシじゃなくて、総理事長の長女が発足したものですよ」
「私の発した言葉を返せ」
「んな無茶な……えで」
右腕の頭上にボールが降って来たぞ、天誅だ天誅。
そんな天誅ボールは、見てくれこそ野球ボールそのものだな。
早くグラウンドに投げ返してやろうとしたが、高校球児の魔の者が慌てて駆け寄って来てた。
「すみません! ケガとかしてませんか!」
「心配ない。それよりも、一体何の球技をしていたんだ?」
「野・KILL YOUになります! 魔界甲死園の常連でもあります!」
随分と物騒な命名だが、ニュアンス的に野球と同じで構わないだろう。
で、魔界甲子園なるものの常連ならば、その実力を直接知りたくなってきたぞ。
投擲大会や棒術大会で殿堂入りを果たしている私を、うんと唸らせる実力である事を期待し、球児に相談したところ、監督と会わせてくれるそうだ。
右腕と共にグラウンドにお邪魔し、監督のオーガに交渉したところ、部のエースが相手してくれる事になった。
「お相手するのは、無敗両刀の鬼子になります」
「全て三振! 全てホームランの両刀鬼子です! しゃす!」
オーガと区別があまりつかないが、強いて言うなら上向きの口牙が目立つな。
2m弱の背丈に、筋肉質とグラマーを両立した容姿は、成人でも十分に通用するぞ。
肝心なルールは人間界の野球と同じようで、実力試しはお互いに投手打者を一度行うものになった。
まず打者は私、鬼子が投手だ。
「全力で行きます!」
「来い」
「ふんりゅ!」
魔力を右腕に集中させ、ボールが離れる指先の最後まで、全神経を注ぐ投法か。
常人なら瞬きする間も無く、ストライクを取られるだろうな。
だが、私の目にはスローモーションに見えている。
父がエロ本を隠すスピードには遠く及ばないが、鬼子の実力は申し分ない。
渾身の一球は見事なまでの場外ホームラン、鬼子は一体何が起きたか分からず、呆然と立ち尽くしていた。
「えーっと……ボールはどこです?」
「ちゃんと打ったぞ。私のバットがへし折れてるだろ?」
「あ、ほんとです」
「だろ? まだまだ成長の見込み有りだな。さ、次は投手だ」
結果は言わずとも、鬼子の投球速度を遥かに上回る投球で、ストレート勝ち。
生涯敗北という文字の経験がなかった鬼子は、四肢を地に着けていた。
「こ、これが完敗……」
「負けた痛みは負けた者にしか分からん。お前なら乗り越えられる」
「あ、ありがとうございました……」
青春を体験できた私は、部の皆に礼を告げ、次なる部活動を目指した。
道中、右腕の奴がそわそわと鬱陶しいので、話を聞いてやった。
「勇者様って出来ないことって無いんですか?」
「初見でない限り、無いな」
「ほぇーハイスペック過ぎて怖」
どんな奴でも時間さえあれば、人並みに出来るだろうが。
アホ頭な右腕には、とりあえず頭を叩いてやった。




