その83 一番乗りと二番乗り
私達が魔王広場に来てから5分が経ち、本当の一番乗りが扉を開きやって来た。
あの上半身が人型で、下半身が巨大蜘蛛のシルエットは、九階層のアラクネママだな。
「こんにちは……あら、私が最初でしたか」
「流石だなママ。ん? その手に持ってるのカバンはなんだ?」
「皆さんが集まるので、食後のデザートと思ってプリンを持って来ました……」
なんとも気の利いた心遣いに、ママから母性を感じてしまうな。
有難くプリンを頂き、食後にピッタリな甘美な味わいに、幸福感がじんわりと湧き上がった。
「ママー! おかわりってあるー?」
「すみませんが、お一人おひとつです……」
「そうかー……」
右腕の分際でおかわりを所望するなんて、数千年早いわ。
奴のしょぼくれた姿がとても似合う中、鱗男が右腕に片膝を着き、プリンを差し出していた。
「魔王様! この竜人王のプリンをお食べ下さい!」
「竜人王君……いいのかい?」
「はい! 魔王様がお望みならば、この竜人王は何でも差し出す所存でございます!」
「キュン! 竜人王君! 君はワシの盟友だ!」
「キュン! 有難き幸せ!」
こいつらを見ているとプリンが不味くなるな。
相思相愛的な空気を今すぐにでも、破壊しようとした時、慌ただしい音を立て、魔王広場へ誰かが入って来た。
あの憎たらしいフォルムは機械魔獣だと一目で分かり、その背中に乗っていたのは、我が愛する妹であるオートマターだった。
「モモちゃん! 時間は!」
《残り50分! 余裕余裕! 頑張ったから沢山褒めろ!》
「ありがとうねモモちゃん! のわ?!」
「よく来たな妹よ」
「お、お姉ちゃん……く、苦しいよ……うぷぅ……」
私の胸の中で、もごもご喋られるとくすぐったいな、ふふ。
やはり我が妹は納まりが素晴らしく良く、非常に居心地が良いな。
しかし、そんな空気をぶち壊すが如く、機械魔獣が鋭利な尻尾を振り回し、仲を物理的に引き裂こうとしてきやがった。
《ご主人様から離れろ! このあばずれ人間女!》
「私の妹を手放すなんぞ、言語道断。貴様を即座にスクラップにしてやる」
《ぐちゃぐちゃのミンチ肉にしてやる!》
今回という今回は本当にスクラップにしてやらなければならないな。
私が分解の力を発動する、まさにその時、我が妹が私とスクラップ野郎の間に割り込んで来た。
「や、止めて! 僕の前で争いをするなら……新魔王様もモモちゃんも嫌いになるから!」
「な!?」
《ガ、ガガガアガガガ?! エラーメッセージを処理中……エラーメッセージを処理中》
不屈な心を持つ私が、膝から崩れてしまった。
心が挫けてしまいそうだ……。
我が妹よ、そこまでして争いを望まない平和主義者だったんだな。
ただ、こんな惨めな姿を晒してしまった私に対し、我が妹は優しく手を差し伸べてくれていた。
「だ、大丈夫ですか? お姉ちゃん?」
「妹よ……今この場で約束しよう……私は妹の前では、金輪際争いはしないと」
「ほんとですか?」
「あぁ……だから嫌いにならないでくれ!」
「勿論ですよ! わぷぅ!」
この愛おしい妹はもはや、神聖なる象徴として大事に大事にしなくてはならない。
「あのー勇者様? 本当にオートマター君の前では、争わないんですね?」
「私の愛の時間を邪魔するな」
「邪魔なんかしませんよ。まぁ、とりあえず! 今この場でだと、制裁を食らわずに済むってのが大変に喜ばしい限りです!」
何だと……右腕の奴め……。
この機に乗じて、自らの安置を確立しやがった!
「……貴様……そのクソみたいな笑みはなんだ。何を企んでやがる」
「何もですよ~?」
絶対に何か目論んでやがる面だが、今すぐ潰そうにも、自らの言動が枷になってしまってる!
この魔王城本城改善計画を終え次第、右腕にキツイキツイ処刑を執行しなければ、気が済まない!