その73 魔蟲は人間界の砂糖がお好き
九階層の裏事情も把握した事だし、最後の階層へと行くとするか。
右腕の処分は後日、私が直接魔界へ連行する事になり、ベルゼブブはその間に手続きやらをするらしい。
「では、新魔王様! 魔界でお待ちしております!」
「あぁ。お、そうだそうだ。魔界観光もしたいから、ついでに頼めるか?」
「も、勿論でしゅ! やったーやったー♪ 頼られちゃった♪」
ぴょんぴょんと巨体を揺らして喜んでる様だが、つい数十分前の自分自身の姿と比べたら、別人も同然だぞ。
「では! 我はこれで失礼します♪ ……貴様は逃げるんじゃないぞ」
「ひゃい!」
右腕にだけ当たりの強い虫羽女は、喫茶店を出て行った。
今から魔界観光が楽しみだが、右腕は未だに氷漬けのまま顔が青ざめていた。
自力で抜け出せだろうに、一体何がしたいのかさっぱり分からん。
だから適当に蹴ってやって、横にしてやった。
「のご?! な、何すんですか!」
「早く最終階層に行くぞ」
「はいはい……よっと」
やっぱり簡単に氷漬けから抜け出せたじゃないか、全く意味の分からん奴だ。
「あ、ママ。この氷使って貰っていいから」
「……持ち帰って頂けないかしら……」
「おい右腕。ママに迷惑掛けるな」
「はぁ~……」
コイツ、自分の立場を理解しながら溜息をつきやがったぞ。
「もう……誰のせいだと思ってるんですか?」
「は? 元は貴様が原因だ!」
「そ、そうでしたね~へへ~今片付けます!」
氷の破片をせっせと溶かし、水浸しとなった床を綺麗に拭き取り、元の状態に戻った。
一仕事した風に、額の汗を拭ってるが、当たり前の事をしただけだからな。
アラクネママの店を後にし、最終階層を目指すべく、エレベーター方面へと足を向けた。
「あ、勇者様。あのプリン食べましたよね」
「それがなんだ」
「あのですね? 人間界の砂糖は魔の者にとって、物凄く甘く感じるぐらい、とても魅惑的な物なんです」
「何が言いたいんだ」
「非常に言いにくいんですが……簡単言えば、今から魔蟲が砂糖の匂いにつられて、勇者様に向かってきます」
「何?!」
右腕の言う通り、大量の不快な羽音と、カサカサとした鳥肌ものの音が、私の方へと接近していた。
蟲に群がれるなんて、私の人生にあってはならないイベントだ。
獄炎で九階層諸共消し炭にする訳にもいかない、つまり残された道はただ一つ。
出来るだけ早くエレベーターに乗り込み、最終階層へ向かう事だ!
「お、噂をすれば沢山来てますねー」
「何を呑気にしてやがる! 走るぞ!」
「ぐぇ?!」
右腕の首根っこを掴みつつ、全力疾走でエレベーターを目指すが、魔蟲共が行く手からも来やがってた。
障害物競争の如く、可憐な身のこなしで回避し、群がれる寸前のところでエレベーターへ乗り込むことに成功。
砂糖の匂いが途絶えたからか、魔蟲共はさっさと戻って行った。
久々にスリリングな経験をし、額の汗を拭いつつ、最終階層のスイッチを入れて移動開始。
相変わらず不得意な虫系統だが、軽くマシに感じれたのは、ベルゼブブやママのお陰だな。
そんなこんな思いつつ、壁へも垂れかかっていると、手に何か持ってる事に気付いた。
「うげぇ……吐きそう……」
「なんだ貴様だったか。ふん!」
「えで?! ざ、雑に投げ飛ばさないで下さいよ!」
「私の勝手だろ」
「理不尽!」
今更投げ飛ばしたことに文句を言うなんて、面倒くさい奴だな。
まぁ、最終階層に着くまでにはケロッとしてるだろうし、無視でいいな。




