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その7 元魔王の手作り

 魔王となって数時間、玉座にも座り飽きた頃だ。


 代り映えのない広間にいても、無駄な時間を浪費するだけだ。

 あの元薄毛も勝手にいなくなって、魔王である私を放置して何様のつもりだ。

 あいつは右腕としての自覚が足りなさ過ぎる。


 あとでそれ相応の罰を与えないと気が収まらん。


「失礼しまーす……あ」

「貴様……何を呑気に戻ってきた」

「いやー小腹空いてるかなーと思って、お菓子持ってきたんですよ」


 菓子如きに数時間、この殺風景な風景を玉座から見下ろしていたんだぞ。

 魔の者達とは違って、人間の残された時間はとても短い。


 のに、コイツは何食わぬ顔で戻ってきた。

 もし菓子がしょうもないクオリティならば、薄ハゲの姿に戻して二度殺す。


「ちなみにワシの手作りなんですよーすごくないですか?」

「なに。殺菌消毒してあるのか?」

「そんな汚くないですって。一口食べたら納得しちゃう筈です」


 コイツの場合、ここで馬鹿をしでかす真似はしないだろうな。

 してやがったら甘味地獄に送ってやる、


 でだ、右腕が作った菓子はシュークリームみたいだな。

 残念だが見た目と香りは食をそそられる。

 正直、食にこだわりのない私には、納得のどうこうなどを押し付けられても基本無関心だ。


 それもその筈だ。

 旅すがらでは泥水を啜り、血肉を食らい、数年間ろくなものを口にしてこなかったんだ。

 食の感激なんて遠の昔に忘れてるが、善意で一口だけ食らってやるか。


 固唾飲んで見やがってムカつくが、私は何も言わな……!?


「……う、美味いだと」

「でしょ? なめらかクリームに時間かけてますし、シューもクッキー生地で仕上げました!」

「……はむはむ……」


 これが腹が幸せに満たされる感覚か……。

 久しぶりに味わってしまった。


 若干だが右腕を見直してやらないといけないみたいだ。


「貴様を見直した……」

「いやー喜んでもらえて何よりです! 厳選した魔虫卵(まちゅうらん)は勿論のこと、牛魔王ちゃんの特濃ミルク、山仙人の背中に生えた剛毛小麦などなど……選りすぐりの食材を使った甲斐がありました!」


 む、虫の卵だと?


「あ、あれ? 勇者様?」


 牛魔王の特濃ミルク……つまり母乳か?


「あ、もしかして震える程感激してくれてるんですか? いや~照れますね~」


 山仙人の背中に生えた剛毛小麦……あり得ない。

 こんなものに腹が幸せになるなんて……絶対にありえない!


「よろしかったら、もう一つ食べます?」


 は? 

 この愚か者は今、私になんて言った?

 もう一つ食べます? と聞こえた気がする。

 いや、耳には確実に届いていたのに、脳が把握したがらなかったんだ。


 だが、もういい。


 右腕は私に、食の感動を最悪の形で思い出させてくれた。  

 この感謝は形にして返さなければならない。


 さぁ……獄炎でこんがり焼いてやる。

 

「貴様は私に……」

「え?」

「なんてもん食わせてんだぁあああ!」

「い、勇者様?! その巨大な炎の剣は何ですか?!」

「貴様はシュークリームもろとも、消し炭にしてやる!」

「ぎゃあああああ!? 来ないでぇえええ!?」

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