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その69 元魔王の直属上司ハエの王ベルゼブブ

 私が魔王城へ初めて足を踏み入れた際、最悪な階層である九階層は、不得意過ぎて記憶する事を放棄していた。

 うろ覚えでだが、魔蟲共が大量に発生する部屋を、幾つも攻略して最終階層へと向かった筈だ。


 とにかく言いたいのは、蟲という蟲をこの世から消し去り、絶対的な世界を作り上げたいんだ。


 なのに今もう一度、悪夢の階層へと足を踏み入れ、裏事情を確認しなければならない。

 こんなふざけた話があっていい筈がない!


「勇者様ー早く歩いて来て下さーい。遅い分だけ長居する事になるんですーよ」

「うっさい! 分かっとるわい!」

「あ、勇者様の足元に千本百足が」

「ひゃ?!」

「っぷ! 嘘です嘘! ぷぷぷー!」


 貴様の言動に、マジでキレる一秒前だぞ。

 一秒後、力を一部開放し、エターナルなんちゃらを強制抹消してやった。


 それに気付かずに未だに笑っている右腕は、私が目の前に立っている事にようやく気付いた。


「ぷぷ……あ」

「慈悲として選ばせてやる。肉塊か爆散、どちらがいい」

「両方嫌ですって!」

「そうか。なら肉塊にしてから爆散させ、蟲共の撒き餌にしてやる」

「ひぃい!? に、逃げるが勝ち!」


 無駄に速い足取りで、私の目の前から消え去った愚か者。


 千里眼の力を使えば、すぐに奴の現在地点を把握出来るが、なんせ蟲共の蔓延る場所だ。

 もしここで千里眼を使用すれば、奴の足跡を辿る様に視界が移動し、その途中で蟲が横切りでもすればドアップに映り込む。

 そうすれば私は白目を向いて、気絶する自信がある。


 使い勝手のいいメリットを取り、悪夢のようなデメリットと向き合うか。

 数秒ばかりの葛藤の末、私は自らの脚で右腕を追う事にした。


 こんな蟲しかいない劣悪環境で、気絶する姿を無様に晒しでもすれば、最悪の場合、口の中に蟲が入る可能性がある。

 それこそ、失禁しかねない醜態を晒す事になり、一日程部屋に引き籠る羽目になる。


 だから私は仕方がなく、不便な道を選ぶことになったんだ。

 この煮え滾るストレスは、右腕を見つけ次第全力でぶつけてやる。


 ただ、右腕の足跡がない以上、最後に見た大まかな進路方向だけが頼りだ。

 蟲共に右腕の行く先を聞こうにも、所詮口の利けない連中だし、聞こうとも思わない。


 どうにかして手掛かりとなるものがあれば……。


 月光蝶と同じ類の人型蟲が、悠々と私の目の前を飛んで、通り過ぎたぞ。

 私は瞬時に先回りし、虫羽女の目の前に立ち塞がった。


「そこの虫羽女。止まれ」

「む? 我の事か」

「貴様しかいないだろ」


 ブンブンと羽音が五月蠅いが、ちゃんと地に足着けて、止まってくれた。

 飛んでいた時にはあまり分からなかったが、身の丈が2m以上ある巨女だぞ。


「ほぅ……随分と舐めた口を利く、魔人の女だな」

「どうでもいいだろ。それより男の魔人を見掛けなかったか」

「答える義理はない。とにかく貴様は、我に無礼を正せ」

「あ? 現魔王である私に指図するか、虫羽女」


 鬱陶しい羽を捥ぎ千切って、上下関係を明確に分からせてやろうか?


「貴様が現魔王? フン! この世界の魔王は、魔人の男だ。名を偽っているのなら、貴様を存在ごと抹消する」

「私を抹消だと? 笑わせるな。そもそも貴様は何様だ。たかが虫羽の生えたデカ女だろうが」

「で、デカ女だと……」


 何やら虫羽女の空気が一変して、地面がジワジワと腐り始めているぞ。


「よく聞け偽り者……我は全魔王の直属の上司に当たる、魔界のハエの王、ベルゼブブだ……今すぐ先程の言動を訂正し、謝罪しろ」

「ハエの王ベルゼブブ? そんな汚そうな王は知らん」


「……貴様は自らの手で救いを絶ち、我に屈辱を与えた……よって、魔界権限により、貴様を存在抹消する」


 黒い虫が全身纏い始め、鎧へと変貌を遂げ、戦闘モードに入ったみたいだ。

 よし、コイツでストレス解消と行くとするか。

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