その66 ゴーゴン親子はケットシーのフェルト人形が欲しい
三番勝負に見事なまでに勝利し、戦利品のケットシーのフェルト人形を抱え、さっさとオークション会場を去った。
鳥女はそのまま放置したが、次会った時にはもう、勝負を挑んてくる過ちは犯さないだろうな。
「さて、裏事情も把握した事だし、九階層に行くぞ」
「ほい! あ、ソフトクリームありますよ! ワシが奢るんで食べて行きましょうよ!」
「私はベンチで待ってる。バニラ味を買ってこい」
「了解!」
ふっ、すっかり私の右腕らしく動けるようになったじゃないか。
アイツとは昨日出会ったばかりだが、何だかんだで長い時間一緒にいる気がするな。
近場のベンチで悠々と腰掛け、ソフトクリームを待ち侘びていると、目の前に蛇髪の親子がトボトボと歩いていた。
「ケットシーちゃんのお人形……欲しかった……スン……」
「ごめんね……今回こそは落札できると思ったけど、お金が足りなかったの……」
「もういいもん……お母さんの嘘つき……スン……」
どうやらあの蛇髪の子供は、前々からフェルト人形を欲してたみたいだな。
同情したいのは山々だが、オークション会場に私という相手がいたのが運の尽きだったな。
フェルト人形が見えないよう、背後に隠しながら、右腕を待つことを再開した。
が、しかしなんだ。
子供がその場で蹲って、嫌でも視界に入ってしまう状況になったぞ。
フェルト人形を欲する妙なプレッシャーを感じるが、早く母親が連れて行くのを祈るしかない。
けど、一向に連れて行こうとせず宥め続けてやがる始末だ。
そんな中、右腕はソフトクリームを両手に持ち、やっと戻って来た。
「お待たせでーす!」
「遅い。早くよこせ」
「はいはい……てか、あのゴーゴンの親子どうしたんですか?」
「……知らん」
「何か妙な間が怪しいかったですよ」
この野郎が……妙なところで勘が鋭いとか、ふざけすぎるだろう。
ふざけた右腕は、足早に蛇髪親子の傍へ行きやがった。
事情を聞いたのか、私の方を見ながらグイグイ接近してきた。
「……勇者様。ここは大人になって下さい」
「し、しかしだな……」
「魔王の名が廃りますよ」
「ぐっ……」
右腕に言われたのは癪だが、確かにこのままだと魔王の名が廃る。
だが、フェルト人形を簡単に差し出す訳にはいか……はっ!
私も子供も納得できる解決策を、今まさに思い付いたぞ!
こうしちゃいられん。
早速蛇髪親子の元へと近付き、声を掛けてやった。
「おい、そこの蛇髪親子」
「スン……話し掛けないで……」
「すみません……今はそっとしておいてくれますか?」
「……分かった。代わりに、ここで少し待ってくれるか」
「え? は、はい」
私は即座にキャラクターショーの行われたステージへと訪れ、ステージ脇にある控室らしき場所に突入した。
止めに掛って来るスタッフがいたが、頭部を壁に埋め込んでやって、ひたすらに奥へ奥へと進んだ。