その62 八階層 ケットシーの遊園地
魔力増大の鍛錬に精進する様、痴女魔女には釘を刺し、次なる階層へと移動した。
歓楽街にインキュバスを導入する件も、納得いく形で解決して良かった。
日の目を見られるインキュバス共には、追々謝礼でも用意させんとな、ふふ。
「思い出し笑いですか?」
「勝手に見るんじゃない。両目をほじくり返すぞ」
「勘弁して下さいよ~」
弱腰な反応の割には、全く声に怯えを感じないな。
そんな右腕自身も、私と同様に軽く浮かれ気分で、くそみたいな顔をニヤニヤさせている。
それもその筈だろうな。
痴女魔女の代償をチャラにして貰って、奪われた毛根が戻ったからだ。
ハゲていた後頭部も、ふっさふさの毛だらけになって、むしろ違和感しか感じない。
私の手刀から生まれる、かまいたちで再びハゲにしてやってもいいが、何故そこまでしてハゲさせる理由もないから止めた。
そうこうしてるとエレベーターが止まり、陽気な音楽と照明が、視界に一面に入り込んできた。
「えーっと、八階層のケットシーの遊園地になります」
「おほぉおおー! ようやくこの階層か! 一番楽しかった思い出しかないぞ!」
「そうですかー」
ここ階層は私の大好きなアトラクションが、牙を向いて襲い掛かって来たが、全てが楽しかった!
まるで底無しの体力を持った子供のように、キャッキャウフフと縦横無尽に園内を巡ったな!
ただ、アトラクションを存分に楽しむというより、逸早く魔王討伐に向かわねば、という使命感の方が圧倒的に勝っていた。
だが、私が新たな魔王になった今、何ものにも縛られることなく、アトラクションを好きなだけ堪能できるんだ!
いざ、園内に足を向けようとしたが、右腕に肩を掴まれ止められた。
「まぁ、アトラクションはあくまで表向きですんで、早く裏事情に行きましょうか」
「はぁ? そんなもん知ったこっちゃない。ビバ! アトラクション!」
「あ、ちょ!? 勇者様!?」
右腕の声は当たり前のように無視し、触れられた肩にリフレッシュを掛けながら、園内へとひたすらに爆走。
遊園地の独特な空気感に、早速飾り耳を買ってしまったが、全身全霊で楽しむならこのぐらいはしないとだ!
そこらかしこに魔の者達もいるが、遊園地らしい光景で、更に盛り上がるな!
園内パンフレットを片手に、まずはどこへ行こうかとワクワクしてたら、何やら魔の者がステージに集っていた。
催し物かなにかと思い、すぐさま集団に紛れて、ステージに注目した。
どうやらキャラクターショーみたいだが、ここのメインマスコットって何なんだろうか。
テーマ曲であろうものが流れ始め、ステージ脇から人間サイズの二足歩行猫が、手を振りながら登場してきた。
「ホホッ! ヨォー! オイラはケットシー! ここの案内人だぜ!」
黄色い声を上げる魔の者に交じり、私もにゃんこに向かって、大きく手を振らせて貰った。
アイツは可愛いマスコットだ、是非とも右腕の代わりに雇いたいぞ。